本稿では、J-REITの東証REIT指数ベースの直近の配当利回りとNAV倍率の確認方法と、両指標の注意点について解説します。配当利回り、NAV倍率ともにREITのバリュエーションで重要な指標です。
個別のREITの指標は一覧が確認できる有用なサイトがありますが、東証REIT指数ベースの数字はすぐに出てこないため解説したいと思います。
個別銘柄のランキングが見られる有用なサイト(「分配金利回り」は市場全体のものもあります)
2020年3月19日追記
この記事は当初3月13日までの市場動向をもとに執筆しましたが、3月19日にJ-REIT市場は東証REIT指数ベースで▲18.51%という未曾有の暴落になりました。これを受けて、値動きと指標については3月19日終値ベースのものに更新しました。
目次(クリックで各項目にジャンプ)
コロナショック第4週までのJ-REIT市況
新型コロナウイルスに対する懸念から市場が急落し始めたのは2月第4週からですが、当初はJ-REITは日本株と比較すると比較的底堅い値動きでした。3月6日時点の年内の高値からの騰落率は、日経平均が▲14%だったのに対し、東証REIT指数は▲9.22%でした。
大きく崩れたのは3月第2週(3/9~3/13)です。3月第2週に、日経平均は▲11.52%下落しましたが、東証REIT指数は▲16.52%下落しました。3月13日時点の年内高値からの騰落率は、日経平均が▲27.72%に対し、東証REIT指数は▲29.1%となり、REITの調整は株より大きくなりました。
J-REITの大幅な調整は3月第3週(3/16~3/19)も続きました。特に、3連休前の3月19日には▲18.51%と1営業日で2割近く下落しました。これにより、東証REIT指数の高値(2月20日)からの下落率は▲49.10%に至り、1ヶ月でほぼ半値になりました。
19日の急落の背景には、地域金融機関やリスクパリティファンドによる売却や、東京オリンピックが中止された場合の不動産市況への悪影響への懸念、不安的な金融市場において各国の金利が上昇していることへの警戒などが挙げられています。
※リスクパリティファンド:様々な資産に分散投資するファンドで、各資産のリスク(標準偏差)が均等になるようポートフォリオを構築する戦略をとるファンド。市場が急変しリスクが上昇したアセットを売却することになるため、市場が荒れるたびに悪者として駆り出される。
東証REIT指数 | ||||
終値 | 騰落率 | 年内高値 からの騰落率 | 2019年末 からの騰落率 | |
2020/2/25 | 2,219.46 | -1.11% | -1.39% | 3.45% |
2020/2/26 | 2,187.00 | -1.46% | -2.83% | 1.93% |
2020/2/27 | 2,137.21 | -2.28% | -5.04% | -0.39% |
2020/2/28 | 2,017.50 | -5.60% | -10.36% | -5.97% |
2020/3/2 | 2,012.59 | -0.24% | -10.58% | -6.19% |
2020/3/3 | 2,028.95 | 0.81% | -9.85% | -5.43% |
2020/3/4 | 2,059.18 | 1.49% | -8.51% | -4.02% |
2020/3/5 | 2,107.14 | 2.33% | -6.38% | -1.79% |
2020/3/6 | 2,043.04 | -3.04% | -9.22% | -4.78% |
2020/3/9 | 1,912.30 | -6.40% | -15.03% | -10.87% |
2020/3/10 | 1,904.06 | -0.43% | -15.40% | -11.25% |
2020/3/11 | 1,907.95 | 0.20% | -15.23% | -11.07% |
2020/3/12 | 1,783.50 | -6.52% | -20.76% | -16.87% |
2020/3/13 | 1,596.30 | -10.50% | -29.07% | -25.60% |
2020/3/16 | 1,548.38 | -3.00% | -31.20% | -27.83% |
2020/3/17 | 1,530.43 | -1.16% | -32.00% | -28.67% |
2020/3/18 | 1,405.69 | -8.15% | -37.54% | -34.48% |
2020/3/19 | 1,145.53 | -18.51% | -49.10% | -46.61% |
東証REIT指数のバリュエーション指標
東証REIT指数は、東証が同市場に上場する全REITについて時価総額加重平均で算出する株価指数です。この指数はJ-REIT運用のベンチマークであり、連動するパッシブファンド(インデックスファンド)も多いものの、大手の投資情報サイトや証券会社のホームページにも価格以上の情報があまりありません。また、東証が出しているファクトシートにもバリュエーション指標は載ってません。
東証REIT指数のバリュエーションを簡潔に取得できる信頼性のあるソースは「不動産証券化協会」(ARES)が運営するJ-REIT.jpというポータルサイトです。同サイトの「統計情報」中の「マーケット指標」という資料に、直近月末ベースの予想配当利回りとNAV倍率があります。
厳密に言うと、東証REIT指数が浮動株調整をしているのに対し、ARESの算出する指標は浮動株を考慮しない時価総額加重平均ですが、大きな違いは出にくいと考えます。
「浮動株調整」についてはこちらの記事をご参照ください。
2020年2月末時点では、予想分配金利回りが3.79%、NAV倍率が1.14倍です。
2月末の指数値である2,017.50ptで逆算すると、2月末時点の予想分配金は76.46(2,017.50×3.79%)、一口あたりNAVは1,769.73です。
これと3月13日と3月19日の指数値から計算すると、3月第2週、3月第3週末の指標として以下の数字が得られます。
3月13日時点の東証REIT指数の指標
配当利回り:4.79%
NAV倍率 :0.90倍
3月19日時点の東証REIT指数の指標
配当利回り:6.67%
NAV倍率 :0.65倍
配当利回り、NAV倍率ともに表面上は魅力度が増した水準に見えます。
REITのの配当利回りとNAV倍率の注意点
続いて、これらの指標を見る上での注意点を述べます。
REITの配当利回り(分配金利回り)の注意点:REITは減配する
分配金利回りはREITのバリュエーション指標としてもっとも一般的です。
これは、REITは各期の分配可能利益の90%以上を投資家に分配することを条件として、REITの段階の利益に課税されず、投資家がREITから受け取る分配金や投資家の譲渡損益のみに課税される仕組みになっているからです。導管性要件と言います(導管=トンネル)。
公募投信がファンド内の証券の取引損益や受取配当金について、投信の段階では課税されず、投資家が投信から受け取る分配金やファンドの譲渡益(解約益)のみに課税されるのと同じです。REITは契約型投信とは異なり法人ですが、いくつかの導管性要件を満たすことで、REITをの段階では課税されなくなります(二重課税の排除)。
REITは、この導管性要件を満たすために、常時配当可能利益の大部分を分配しているため、各期の利益≒分配金となり、配当利回り≒益利回り(PERの逆数)となるため、分配金利回りを見ておけば各期の収益もおおむねフォローできるのです。
これは裏返せば、REITは毎期、分配可能利益のほぼ全額を分配金に回しているため、収益が悪化した時のバッファーが無いということです。
株式であれば、減配は市場からネガティブに受け取られることが多いため、配当可能利益に余裕があれば一時的に業績が悪化しても配当金は維持されることもあります。
一方、導管性要件を満たすために常時配当性向が高いREITにはこれができません。収益環境の悪化でREITの利益が減少すれば、ダイレクトに減配につながります。
金融危機後の2009年、2010年は日本ビルファンド投資法人やジャパンリアルエステイト投資法人でさえ減配していたので、足元の分配金水準が今後も維持されるかは、不動産市況の今後に左右されます。私見では現在の予想配当利回りをそのまま見るのは危険だと考えています。
REITのNAV倍率の注意点:1倍割れの常態化と評価額悪化による毀損
NAV倍率は、REITの市場価格(株価)を一口あたりの純資産で割ったもので、株式のPBRに相当します。分母の1口あたりの純資産は鑑定評価による不動産の時価に基づいているため、1倍割れはREITの清算価値を下回る水準で市場価格がついていることになります。
ただ、株式のPBRと同様に、REITのNAV倍率1倍割れが常態化したこともかつてはありました。例えば、以下の非常に有用なサイトではJ-REITのNAV倍率の長期推移が載っています(データ元は前掲のARESです)。
J-REIT全体のNAV倍率は、金融危機から東日本大震災後の相応の長い期間1倍を割っており、最悪期は0.6倍まで縮小していました。
3月19日ベースの0.65倍はヒストリカルな最安圏にありますが、裏返せば現値で売却している投資家は鑑定評価額の悪化による1口当たり純資産(NAV)の減少や、REITの信用悪化(REITは借入でレバレッジをかけています)を見ていると推測できます。
特に、2008年の金融危機時と比較すると、2010年代にはインバウンド需要の拡大を背景にホテルやレジャー施設といった収益の振れが大きな物件に投資するREITが増加しており、NAVの毀損が懸念されている可能性があります。
0.65倍が毀損の恐れの無い数値かは慎重に判断する必要があると考えています。
(偉そうなことを書いていますが、自分は2014年のNISA初年に購入したREITのETFをまだ保有してます。完全に逃げ遅れました。19日午後にナンピン入れてます。当面不安定な値動きになりそうですが買い下がる方針です。)
おわり:日次の流動性はあらゆる資産を株にする?
以上、東証REIT指数(J-REIT市場全体)ベースの配当利回り、NAV倍率の確認方法と、両指標の注意点でした。
最後に、持論を書いて終わります。
自分は12年市場を見ていて、
「日次の流動性を与えるとあらゆる資産が株になる」
という感覚を持つようになりました。
実際に、REITのリターンの特性(平均、標準偏差)は現物不動産よりも株に近く、現物不動産との相関よりも株との相関の方が高いです。
※分厚くて高いですが、米国の例について以下の本等に記載があります。
実物不動産は頻繁に売買されるアセットではなく、取引ベースの市場価格の把握が困難です。定期的に鑑定評価を行うにしても、年次か多くても四半期ごとです。
この、ミドルリスク・ミドルリターンの実物不動産を集めて投資法人にし、上場し日次の流動性を与えると、株に近い値動きをするREITになるのです。
日次の流動は、投資家の不安、パニック、強気といった様々な感情を証券の価格が受け止めることと不可分です。結果として日次の流動性が与えられたアセットの値動きは、日次の流動性の元祖である株に近づくのではないでしょうか。
これはREITと不動産だけではなく、最近のETFと社債も同様ではないかと推測します。例えば昨年末の以下の記事では、流動性が低い社債を組み込んだETFの運用残高拡大に対する当局の警戒感に言及しています。