2021年追記
このページの記事は、2019年12月に、東証の市場制度改革において流通株式の定義の見直しが見込まれることが最初に報じられたときのものです。
2020年12月・2021年2月に発表された変更後の流通株式の定義については、以下の記事で詳しく書いています。市場制度改革の前後でどう変わるのかに興味がある方は↓の記事をオススメします。
東証の流通株式時価総額の定義変更で何が変わるか
2022年4月に東京証券取引所が市場区分の再編を行います。 現行の市場第一部、第二部、マザーズ、ジャスダックの区分を再編し、「プライム」「ス ...
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25日の日経新聞朝刊の東証の市場改革に関する報道の中に、違和感を覚える言葉がありました。
「流通時価総額」です。
記事そのものは、新設される「プライム市場」(現行の市場一部より厳選された銘柄を取り扱う市場)への上場基準として、市場で流通している株数に基づいて算出する流通時価総額100億円を基準にする方針になったという内容です。
私が違和感を覚えたのは、この「流通時価総額」という言葉がすでにある言葉と微妙に異なるからです。
現在の東証の有価証券上場規程では「流通株式」とそれに基づく「流通株式時価総額」という基準を新規上場や上場廃止の審査に使っています。
あえて違う言葉を使うのは、明確な使い分けの意図を感じます。
本稿では、「流通時価総額」と「流通株式時価総額」の使い分けの意図について考察し、併せて「浮動株」との違いについても解説します。
目次(クリックで各項目にジャンプ)
ちなみに、市場改革の話ではありませんが、時価総額の話は先月も取り上げました。流通株式時価総額と浮動株調整の解説はこちらでも取り上げています。
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「流通時価総額」と「流通株式時価総額」
見直しを求める意図?
今回の報道のもとになっているのは金融庁が24日に公表した「金融審議会市場ワーキング・グループ 市場構造専門グループ報告書(案)」という資料です。25日に行われる同ワーキンググループの会合の資料という位置づけです。
資料の以下の部分に注目です。
プライム市場に今後新たに上場する企業の時価総額に関する基準については、(略)、より市場における流動性に着目する観点から、単純な時価総額だけではなく、「流通時価総額」1を基準とすることが適当と考えられる。なお、この機会に現在の流通株式の定義についても見直しを検討することが考えられる2。
また、この部分にかかる注として以下の記載があります。
2 現在、流通株式から除かれる株式は、10%以上の大口保有者分などとなっている。今後、流通株式の定義については、保有者の売買の状況や保有の意図を踏まえてより実態に即したものとなるよう検討することが考えられる。また、PE ファンド(再生ファンドを含む。)などの保有分を流通株式に含めることについても、検討が必要であると考えられる。
出所:本文・注記ともに「金融審議会市場ワーキング・グループ 市場構造専門グループ報告書(案)」3頁。中略及び太字強調は管理人による。
想像も入りますが「現在の基準をそのまま使うのではなく、これを機に見直したものを使うように」という意図があるため、あえて現行の「流通株式時価総額」とは異なる文言を使っているように感じました。
現在の「流通株式時価総額」
現在の「流通株式」の定義は以下のとおりです
流通株式=全上場株式ー(役員所有株式数+自己株式数+10%以上の大株主の持ち分)
有価証券上場規程と施行規則で「投信や信託ファンドの持ち分は流通株式に含める」「役員所有は会社法の役員のみで執行役員(従業員)は含まない」といった相応に詳細な取扱いが定められています。
これに基準時点の株価を乗じたものが流通株式時価総額です。
浮動株との違い
流通株式と似たような言葉に「浮動株」という言葉があります。
時価総額加重平均と浮動株調整
浮動株は「市場で流通する可能性が高い株式」(TOPIXの定義)です。
流通株式とコンセプトは同じですが「浮動株」は株価指数の算出で使われる言葉です。
時価総額加重の株価指数では、市場で流通しない株数が時価総額に含まれてしまうとウェイトが歪みます。
例えば、発行済株式全体の1.5%しか市場で流通していないサウジアラムコが、全発行済株数ベースの時価総額がマイクロソフト(MSFT)やアップル(AAPL)以上だからといって、ACWIでトップウェイトになるのはおかしいです、
これを解消するために、算出者は「浮動株調整(Free Float Adjustment)」と呼ばれる処理を行った時価総額を使ってウェイトを計算します。
MSCIやFTSEラッセルのような算出会社が算出する指数も、TOPIXのように証券取引所が算出する指数も、時価総額加重平均のものはほぼ浮動株調整をしています。
流通株式と浮動株の比較
浮動株調整の具体的な方法は算出者がメソドロジーブック(算出要領)で公表しています。ただ、最終的な判断は算出者が行うという留保がついている場合が多いです。
一例を紹介すると、MSCIのメソドロジーブックでは、金融機関の政策保有(≒持ち合い)の除外や、外国人保有制限(FOL)のある銘柄は外国人が保有できる割合だけを浮動株に含めるという取扱いが定められています。
これらの視点は現行の「流通株式」には無いものです。
また、TOPIXは東証が算出する指数ですが、TOPIXの算出で使う「浮動株」と、上場審査等で使う「流通株式」は別の基準になっています。
大株主の除外をベースにしている点は似ていますが、TOPIXの方が算出者に裁量がある記載になってます。流通株式は新規上場と上場廃止の審査に使われるのでより厳格です。
https://www.jpx.co.jp/markets/indices/line-up/files/ref_1_FFW.pdf
おわり
以上です。
自分は指数も上場規程も好きなので、そこそこディープな解説になりました。
参考になれば嬉しいです。
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