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金融機関に勤めていると個別株を買えないというパラドックス

2018年4月12日

本稿では、勤務先と個人の証券取引(株、先物、FX等)の規制について解説します。管理人自身も金融機関勤務が長かったので、参考になると思います。
ただ、実際の投資にあたっては勤務先のコンプライアンス・マニュアルを読み、必要に応じてコンプラ担当者に確認し、各人のご判断でお願いします。

2020年7月追記:登録金融機関業務等について踏み込んで説明するよう追記しました。

自分も金融関連の会社で働いていた間は、日証協の規則等で個人の信用取引や先物取引が出来ませんでした。また、会社の自主規制で、個別株の取引は届出制だったり一律禁止だったので、自身の資産運用は公募投信とETFが中心でした。
仕事では株を売買したことがあっても個人ではファンドしか売買したことが無いというのはちょっと矛盾した状態です。ただ、業界だとこういう人は少なくないと思います。

法令等による規制(金商法、協会規則等)

金融機関職員だと、金融商品取引法(金商法)や日本証券業協会(日証協)の規則で、有価証券の売買が規制されています。

以下の2社の口座開設の案内がとても分かりやすくまとまっています。

リンク:カブドットコム証券ー金融機関(証券・銀行・生保・損保等)にて勤務されているお客さま

リンク:SBI証券ー金融商品取引業者等に勤務されているお客様のお取引について

順を追って解説します。

日証協と金融先物取引業協会の規制

まず、金融機関に勤務していると、日証協の規則で信用取引や先物・オプション取引が禁止されます(「協会員の従業員に関する規則」第7条第4号)。
ここでいう「金融機関」は、日本証券業協会(日証協)の加入ステータスによって、正会員の金融商品取引業者(証券会社等)登録金融機関(銀行・保険会社等)に分かれます。
そして、信用取引等の禁止は、証券会社の従業員と、登録金融機関で登録金融機関業務に従事する従業員に適用されます(「協会員の従業員に関する規則」第2条第6号)。
登録金融機関業務というのは、日証協に登録した銀行・保険会社等が行える証券業務のことです。典型例は、投資信託の販売、対顧客スワップ・私募債引受といった企業融資の関連業務、債券ディーリング等です。

また、FXについては、金融先物取引業協会の会員会社(FX会社等)に勤務していると、FX取引が出来ません。これは金融先物取引業協会の規則による規制です。

金商法の「投機的利益の追求を目的として~」の解釈

以上の2つの業界団体の自主規制を読む限りでは、例えば、銀行員(登録金融機関職員)でも、登録金融機関業務に従事していなければ信用取引や日経平均先物取引(市場デリバティブ取引)やFX取引が制限されていないように見えます。

ただし、上記の信用取引・FX取引等の禁止とは別に、金商法では、証券会社や登録金融機関の役職員が「専ら投機的利益の追求を目的として有価証券の売買その他の取引等をする行為」を禁じています(金商法第38条第9号・金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第12号)。
ここに信用取引、市場デリバティブ取引、FX取引も含まれると解釈するのであれば
、登録金融機関業務従事者以外であってもこれらの取引は禁止ということになります。
実際に、私の以前の勤務先でもこのような解釈で役職員にFX取引禁止を周知しているところがありました。
具体的な解釈と運用は各社で異なる可能性があるため、信用取引やFX取引の制限については勤務先の内規をよく確認する必要があります。

ともあれ、勤務先が、日証協の正会員または登録金融機関の場合は、信用取引、先物取引、FXのようなレバレッジのかかる取引は規制されていると考えておいたほうが良いです。

会社の自主規制による株取引の制限

前項のように、金商法や協会規則では、信用取引やデリバティブ取引のようなレバレッジがかかる取引は禁止・制限していますが、金融機関職員だからという理由で個別株の取引までは一律で禁止になっていません

ただ、会社の自主規制(社内規則)で厳しい届出制や一律禁止を定めているところが多いです。
届出制の典型例は、取引を行う前にコンプライアンス責任者に取引内容を書面で提出し了承を得るというルールや、保有期間の制限がある(取得後半年以上たたないと売却できない等)というルールです。
届出制の実態は「空気読んで自粛せよ」という雰囲気だったり「手続きを踏めば問題ない」という雰囲気だったりと、会社によって温度差があるようです。
(自分のいたところは前者でした。)
また、金融法人のケースでは、証券運用部門の役職員は一律禁止だが融資担当者は自分の担当業種でなければ基本OKというように、部署によって取り扱いが異なることもありました。

個別株の取引の制限はレバレッジがかかる取引以上に会社によって差があるため、重要な場合は入社前に確認すべきです。新卒で聞きにくい時はOB訪問の機会を利用してもいいかもしれません。

最後に、会社がこういった自主規制を置く理由を解説します。これは主にインサイダー取引防止と、顧客との利益相反の排除の観点からです。

インサイダー取引防止

融資や投資銀行業務のように、顧客企業の資金調達の手伝いをする仕事をしていると、会社の株価に影響を与える事実を公表前の段階で知ることがあります。
M&Aや公募の新株発行は株価にダイレクトに影響します。
そのため、インサイダー情報に触れる機会がある部署では、社内の情報管理をちゃんとやるだけでなく、社員の個人的な取引も制限している場合がほとんどです。
また、これは金融機関職員に限った話ではなく、例えば新聞記者や公認会計士も株の取引の規制があると聞きます。

利益相反の排除

こちらは、顧客の利益と相反するような立場の取引をしてはいけないという観点です。運用会社で個人の株取引が規制されている理由は主にこちらです。

具体的には、上場企業A社の株を、証券会社(セルサイド)のアナリストが顧客に買うように推奨する場合や、運用会社(バイサイド)のファンドマネージャーが自分の担当ファンドで買う場合は、A社の株価が高騰する可能性があります。
株価が高騰したところで、アナリストやファンドマネージャーが事前に個人の口座で持っていたA社株を売れば自分は儲かりますので、顧客の利益を犠牲にして自分が儲かるインセンティブが生まれてしまいます。
これがありがちな利益相反の例です。

おわり

以上です。
整理の軸は金商法、業界の自主規制、会社の自主規制の3段階がありますが、運用・解釈の余地があるため、最終的には勤務先の規則次第です。

金融機関に就職・転職した方などの参考になれば幸いです。

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