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ETFの換金売りはなぜ7月上旬なのか(ETFの決算分配金のフロー)

7月上旬の市況コメントには「ETFの換金売りが重石」というコメントがよく出ます。

例えば以下のロイターの2020年7月7日の記事には、

指数連動型ETF(上場投信)の分配金支払いに伴う換金売りも警戒されたもよう。

という記載があります。

本稿ではこの「ETFの換金売り」について説明します。

2022年6月追記:数字の時点の明記と文体の調整

よくわかるETFの換金売り

日本株ETFは7月決算

規模が大きい日本株ETFの決算日は7月上旬に集中している。
以下に挙げるとおり、時価総額上位はすべて年1回7月決算である。
7位にやっと1月・7月年2回決算のMUKAMのTOPIX(1348)が登場する。

コード名称・運用会社純資産総額決算
1306TOPIX連動上場投信・野村AM11兆円7月
1321日経225連動上場投信・野村AM6.2兆円7月
1305ダイワ上場投信トピックス・大和AM5.5兆円7月
1308上場TOPIX・日興AM5.4兆円7月
1330上場225・日興AM2.9兆円7月

※数字は2020年7月時点

そのため、前掲の記事のように「決算を迎えるETFが分配のために株を売る」ということが7月上旬には毎年意識される。
これは今に始まった話ではなく、13年前に自分が株の仕事を始めた頃にはすでに言われていた。
ただ、日銀のETF買入により日本株ETFの残高は激増しており、近年では注目度が高まっている。

(参考)
こちらの記事では時価総額上位の日本株ETFの決算日をもう少し具体的にまとめています。
→2022年最新の純資産残高と8日と10日が多いことの確認等に

3月決算の会社の配当金が6月下旬に支払われる

日本株ETFが7月決算の直接の理由は、日本は3月決算の上場会社が多く、それらの銘柄の配当金が6月下旬に支払われるからだ。
2020年時点では東証1部上場企業2,200社のうち、1,500社程度が3月決算だった。

ETFは6月下旬に受領した配当金を原資に、ETF保有者に分配金を出す。

特殊な戦略のものでない限り、ETFは保有株式の実績配当利回り相当額を毎期分配する。

(自分は機関投資家向けのセパレートアカウントやETFからファンドの仕事を初めた人なので、後年に公募投信の運用担当者をした時に「基準価額10,000円相当になるよう分配する」方針のファンドが世の中には多いことに驚いた。これはキャピタルゲインも分配原資にするということ。)

待って、売らなくても配当金もらったんでしょう?

ここまでの説明だと
「3月決算会社から受領した配当金をそのままETF保有者に分配するなら、分配のために株を売るという話はどこから来たの?」
というもっともな疑問が出てくる。
これには以下の2点が関係している。

6月より前に受領した配当金

まず、年1回決算のファンドだと、このタイミングで前年9月基準の中間配当金や12月決算の会社等から受領した配当金に相当する部分も分配する。

ETFもパッシブファンドであり、不要なキャッシュを持っているとトラッキングエラーの要因になる。
そのため、ファンドが投資先から受領した配当金は、目先のキャッシュ支払いの予定がなければ株式に再投資する。
年1回決算であれば、配当金受領後に再投資にあてられていた分を決算のタイミングで売却しキャッシュを確保する。

※トラッキングエラーについては以下に解説記事を書いています。ぜひ一緒にどうぞ。

トラッキング・エラーの定義と見方

ファンドの評価指標にトラッキング・エラー(T.E.)という数字があります。 アクティブファンドでもインデックスファンドでも重要な指標です。 ...

続きを見る

配当落ち時に先物でカバーした分の手仕舞い

また、配当金の経理処理も関係している。

3月末決算の会社の株式を保有していると、3月末が期末配当の基準日になるため月末の1営業日前が配当落ち日になる。

株式会社の経理でも投資信託の計理(ごんべんけいり)でも、上場株式の配当金は配当落ちのタイミングで(資産)未収配当金/(収益)受取配当金を計上し収益認識する。

この時、配当金の現金は受領していないものの、ファンドの純資産(基準価額)には配当金が反映される。
ここで配当の入金まで何もしないと、ファンドの純資産に対して株式保有が不足するため未収配当金相当額がトラッキングエラーの要因になる
そこで、先物でこの分のエクスポージャーを取る(株式の価格変動リスクを取る)ことでトラッキングエラーを回避する

この先物を使ったオペレーションは、通常はキャッシュ部分のエクスポージャーを取るために行われている。
インデックスファンドでは不要なキャッシュを極力持たないよう運用するが、公募投信では設定・解約や費用支払いに備えてある程度キャッシュを持たざるを得ない。
このキャッシュ部分は、ファンドの純資産に対して株式保有が足りないことになるため、トラッキングエラーの原因になる。
そのため、パッシブ運用では、手元にキャッシュを保持したまま先物買いでキャッシュ相当額の株のリスクを取り、ファンドの実質的な株式比率を100%に高める
インデックスファンドの月次レポートや運用報告書で、保有資産の内訳に先物があるのはこのため。

未収配当金もこれと同じように先物を使って実質的な株式比率をカバーしている。

すなわち、

・配当落ち時にファンドの基準価額には受取配当金が反映されるため、その分を先物を買う(キャッシュはまだ来てない)

・6月下旬に配当金が入ってくるがこれは分配のためにとっておく

・7月の決算のタイミングで配当再投資に相当する先物買いを手仕舞う&ファンドの基準価額が分配金相当額だけ下がる

⇛トラッキングエラー回避

という流れになる。

この先物の手仕舞いと、最初に述べた再投資中の3月決算以外の会社からの受取配当金相当分のキャッシュ化(素直にポートフォリオをスライス)が、ETFの決算に伴う株式売却のオペレーションだと認識している。

もちろん、ファンドが保有する株式や先物は「この分は昨年の中間配当の再投資分」「この分は3月の未収配当の見合い」というような色がついているわけではない
実際には、決算に伴うキャッシュアウト(分配金と諸費用支払い)の発生後も

(株式+先物)÷ファンドの純資産総額=100%

となるように株式、先物、キャッシュの比率を調整するような感覚なのだと推測する。

おわり:お金はあるけど株は売る

以上。

「分配金捻出のため」と言われると現物売りでキャッシュを手当てするイメージですが、実態は先物取引の手仕舞いも絡めた取引です。
「6月に配当を受領したばかりなのに分配のための売り」という話が腑に落ちなかった方の参考になれば嬉しく思います。

 

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