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ETFの換金売りはなぜ7月上旬なのか(ETFの決算分配金のフロー)

7月上旬の市況コメントには「ETFの換金売りが重石」というコメントがよく出てきます。

例えば以下のロイターの7月7日の記事には、

指数連動型ETF(上場投信)の分配金支払いに伴う換金売りも警戒されたもよう。

という記載があります。

本稿では、ETFの換金売りについて説明します。

よくわかるETFの換金売り

日本株ETFは7月決算

規模が大きい日本株ETFの決算日は7月上旬に集中しています。
以下に挙げるとおり、時価総額上位はすべて年1回7月決算です。
7位にやっと1月・7月年2回決算のMUKAMのTOPIX(1348)が登場します。

コード 名称・運用会社 純資産総額 決算
1306 TOPIX連動上場投信・野村AM 11兆円 7月
1321 日経225連動上場投信・野村AM 6.2兆円 7月
1305 ダイワ上場投信トピックス・大和AM 5.5兆円 7月
1308 上場TOPIX・日興AM 5.4兆円 7月
1330 上場225・日興AM 2.9兆円 7月

そのため、前掲の記事のように「決算を迎えるETFが分配のために株を売る」ということが7月上旬には毎年意識されます。
これは今に始まった話ではなく、13年前に自分が株の仕事を始めた頃にはすでに言われていました。
ただ、日銀のETF買入により日本株ETFの残高は激増しており、近年ではより注目が集まりやすくなっています。

3月決算の会社の配当金が6月下旬に支払われる

日本株ETFが7月決算の直接の理由は、日本は3月決算の上場会社が多く、それらの銘柄の配当金が6月下旬に支払われるからです。
東証1部上場企業2,200社のうち、1,500社程度が3月決算です。
ETFは6月下旬に受領した配当金を原資に、ETF保有者に分配金を出します。
特殊な戦略のものでない限り、ETFは保有株式の実績配当利回り相当額を毎期分配します。
(自分はETFから入った人なので、公募投信の運用担当者をした時に「基準価額10,000円相当になるよう分配する」方針のファンドが世の中には多いことに驚きました。これはキャピタルゲインも分配原資にするということです。)

待って、売らなくても配当金もらったんでしょう?

ここまでの説明だと
「3月決算会社から受領した配当金をそのままETF保有者に分配するなら、分配のために株を売るという話はどこから来たの?」
というもっともな疑問が出てくると思います。
これには以下の2点が関係しています。

6月より前に受領した配当金

まず、年1回決算のファンドだと、このタイミングで前年9月基準の中間配当金や12月決算の会社等から受領した配当金に相当する部分も分配します。
ETFもパッシブファンドであり、不要なキャッシュを持っているとトラッキングエラーの要因になります。
そのため、ファンドが受領した配当金は、目先のキャッシュ支払いの予定がなければ株式に再投資します。
年1回決算であれば、配当金受領後に再投資にあてられていた分を決算のタイミングで売却しキャッシュを確保します。
トラッキングエラーについては以下の解説記事を書いています。ぜひ合わせてご覧ください。

トラッキング・エラーの定義と見方

ファンドの評価指標にトラッキング・エラー(T.E.)という数字があります。 アクティブファンドでもインデックスファンドでも重要な指標です。 ...

続きを見る

配当落ち時に先物でカバーした分の手仕舞い

また、配当金の経理処理も関係しています。
3月末決算の会社の株式を保有していると、3月末が期末配当の基準日になるため月末の1営業日前が配当落ち日になります。
株式会社の経理と同様に投資信託の会計でも、上場株式の配当金は配当落ちのタイミングで未収配当金/受取配当金を計上し収益認識します。
この時、配当金の現金は受領していないものの、ファンドの純資産(基準価額)には配当金が反映されます。
ここで配当の入金まで何もしないと、未収配当金相当額がトラッキングエラーの要因になるため、先物でこの分のエクスポージャーを取る(株式の価格変動リスクを取る)必要があります。

この先物を使ったオペレーションは、通常はキャッシュ部分のエクスポージャーを取るために行われています。
インデックスファンドでは不要なキャッシュを極力持たないようにしますが、公募投信では設定・解約や費用支払いに備えてある程度キャッシュを持たざるを得ません(通常は時価の1-3%程度)。
このキャッシュ部分は、ファンドの純資産に対して株式保有が足りないことになるため、トラッキングエラーの原因になります。
そのため、特にパッシブ運用では、手元にキャッシュを保持したまま先物買いでキャッシュ相当額の株のリスクを取り、ファンドの実質的な株式比率を100%に高めます
インデックスファンドの保有銘柄に先物があるのはこのためです。
未収配当金もこれと同じように先物を使って実質的な株式比率をカバーしています。

すなわち、
・配当落ち時にファンドの基準価額には受取配当金が反映されるため、その分を先物を買う
(キャッシュはまだ来てない)
・6月下旬に配当金が入ってくるがこれは分配のためにとっておく
・7月の決算のタイミングで配当再投資に相当する先物買いを手仕舞う&ファンドの基準価額が分配金相当額だけ下がる
⇛トラッキングエラー回避

という流れです。
この先物の手仕舞いと、最初に述べた3月決算以外の会社からの受取配当金相当分のキャッシュ化(素直にポートフォリオをスライス)が、ETFの決算に伴う売りオペレーションだと認識してます。

おわり:お金はあるけど株は売る

以上です。
「分配金捻出のため」と言われると現物売りでキャッシュ手当てのイメージですが、実態は先物取引の手仕舞いも絡めた取引です。
「6月に配当を受領したばかりなのに分配のための売り」という話が腑に落ちなかった方の参考になれば嬉しいです。

 

  • この記事を書いた人

ton

2007年から運用会社や金融機関の運用部門で株を中心に見てきました。 現在は運用業務からは離れていて運用は自己資金のみ。 投信の請求目論見書や指数の算出要領からプロダクトの中身に迫るのが好き。

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