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バブル期1989年の日経平均と今の日経平均の採用銘柄の違い

2024年2月17日

本稿では、日経平均が最高値をつけた1989年の日経平均に採用されていた銘柄が現在何銘柄残っているかを見ていきます。

たまにメディアに出てくる1990年以降の銘柄入れ替えの回数を225で割って「3分の2以上が入れ替わっている」というのは個人的には雑な見方だと考えているので、もっと中身に踏み込んだことを書きます。

(参考)集計方法に関する注記と愚痴

本稿では「2023年末時点の日経平均の採用銘柄と1990年から2023年までの銘柄入れ替えを突合して1989年末から現在まで残っている銘柄を見る」というアプローチを取った。銘柄入替の履歴は公式サイト「日経平均プロファイル」から地道に取得した(2000年までは公表資料が閲覧可能。1999年から1990年までの履歴は2000年4月の日経平均の大規模変更に関する資料中に記載あり)。Wikipediaにも1970年以降の入替え履歴が載っているのだが、いくつか漏れがあったので上記の通り公式の資料を確認した次第。
めんどくさかった。こいういうのって
BloombergのMEMB(指数の構成銘柄のを表示する機能)とかだと34年前まで遡れるのでしたっけ?

道案内:

「何社残っているか」ではなくて「1989年当時の採用銘柄のリスト」に興味がある方は↓の記事の方が参考になると思います。

史上最高値更新を見据える日経平均と数字の意味

追記:2024年2月22日に高値を更新しました!

日経平均が史上最高値をつけたのは今から34年と2ヶ月前のこと。

バブル期の日経平均の最高値

最高値を記録した日:1989年12月29日(平成元年の大納会)

終値ベースの最高値:38,915円87銭

ザラ場(取引時間中)を含めた最高値:38,957円44銭

2024年2月に日経平均が最高値更新を見据えた水準になったことで、当時と現在を比較する報道が多く見られるようになった。経済誌やテレ東はもちろん、普段は市況に無関心な民放でも取り上げられるようになっている。

https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/900001540.html?page1

一応確認すると、当時との比較でよく言われるのは以下の2点。

・PERが60倍を超えていた当時の日本株と異なり、現在の東証プライム市場のPERは今期予想ベースで16倍程度。バリュエーションの加熱感は無い。

・日経平均の採用銘柄は当時とは異なり半導体関連等のグローバルな銘柄が増え魅力度が高まっている。

個人的には、銘柄入替えがあり、時価総額加重(≒株式市場の規模を近似)ではない日経平均が過去最高値を抜いたとしても、そこに心理的な節目・高揚感以上の何かを見出すべきではないと考えている(もちろん高揚感はとても大切)。

入替え回数÷225で日経平均の変化を見ることの問題点

さて、「1989年 現在 日経平均 構成銘柄 違い」でググると

「1989年の日経平均と現在の日経平均では3分の2が入れ替わっている」

としている記事がいくつか見つかる。

会社四季報オンライン 2019年4月19日

https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/278175

東証マネ部(三井住友トラストアセット(SMTAM)の寄稿) 2021年5月14日

https://money-bu-jpx.com/news/article030543/

Yahooニュース(日刊ゲンダイ) 2024年2月14日

https://news.yahoo.co.jp/articles/556390ba84777df3fcda98a5d5e4464be3d834bc

この中では一番上の会社四季報オンラインの記事のみが誠実に計算方法を記載していて、

→1990年から記事執筆時までの日経平均の銘柄入替えの回数が148回

→現在残っているのが77銘柄(225-148)

→77/225=34%となり3分の2が入れ替わっている

というロジックである。

ただこれはあまり正確ではない方法だと言わざるを得ない。極端な例を出すと、225銘柄のうち特定の10銘柄が148回入替え対象になっていれば指数に残っているのは77銘柄ではなく215銘柄である。ここまで極端ではないものの、この期間に採用と除外の両方を経験した銘柄はいくつもある

象徴的な例を挙げると

・2000年4月の日経平均の大規模変更(選定基準改定と30銘柄入替え)で採用された日本興業銀行は、同年9月に株式移転(みずほホールディングス発足)で上場廃止になったため指数から除外された。日経平均に採用されていた期間は半年未満である。

・2001年に採用された日本航空は2010年の経営破綻(会社更生法適用)で上場廃止になり指数から除外されたが、2012年に再上場し2023年に日経平均に再び採用された。

というようなことがあった。

また、このような指数の銘柄入替え回数の集計では、組織再編行為に関わる銘柄入替えを過剰にカウントしてしまう。
東証の上場制度では、株式移転等の新会社が新規上場する組織再編では新しい証券コードで別の銘柄として上場することになる。
cf.新会社が新規上場しない組織再編であれば新規上場も銘柄入替えも発生しない。例えば、上場会社同士の吸収合併では存続会社、株式交換であれば完全親会社が再編前と同じコードで上場継続する。

そのため、

日本通運(9062)が単独株式移転でNIPPON EXPRESSホールディングス(9147)を設立し持株会社化した(2021年12月)

という企業グループの実態が変わらない組織再編であっても、別銘柄なので指数上の取扱は「銘柄入替え1回」となる。同じ持株会社化でも、

丸井(8252)は新設分割で事業子会社の(新)丸井とエポスカードを新設し、親会社となる既存法人の商号を丸井グループに変更した(2007年9月)。

場合は同じ証券コード8252で上場し続けるため指数の銘柄入替えも発生しない。

また、

第一勧業銀行(8311)、富士銀行(8317)、日本興業銀行(8302)が株式移転で持株会社のみずほホールディングス(8305)を設立し経営統合した(2000年9月)

というケースでは、興銀、一勧、富士銀は3銘柄とも日経平均採用銘柄だったので、みずほホールディングスと他の2銘柄が新たに採用された。単純な入替え回数のカウントでは3回になるが、みずほホールディングスは株式移転前の3行の地位を継承する銘柄なので、入替え回数は2回とするのがより実態に即している

こういった問題点から、本稿の集計では

・2023年末時点の日経平均の採用銘柄と1990年から2023年までの銘柄入れ替えを突合して1989年末から現在まで残っている銘柄を見る。

・組織再編の当事会社は可能な限り遡る。みずほフィナンシャルグループであれば1989年当時の採用銘柄の第一勧業銀行と富士銀行まで遡る。

という方針を取った。

1989年から2024年まで日経平均に採用されている銘柄

最終的には目視確認で判断しているので、漏れや違和感があればコメント欄かXで教えてください(特に区分が「承継」の銘柄)。

見方の説明

・当時と現在で証券コードの変更なく日経平均に採用されている銘柄は種別を「ガチ」とした。商号変更や組織再編を経ていたとしても上場法人が同じであればこちらに含まれる。

・組織再編で証券コードが変わっているが、当事会社の少なくとも1銘柄が当時も現在も日経平均に含まれている銘柄は種別を「承継」とした。現在上場している持株会社等が採用された年を「現法人の採用年」に記載する。

・途中で構成銘柄から除外されたことがある銘柄は「ガチ?」「承継?」とした。

・備考として当時の銘柄名を掲載した。当時の日経平均採用銘柄のみを記載しているので再編の当事会社を全て網羅していないことに留意
(三菱UFJ FGの箇所に三和銀と東海銀が無い等)

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種別 証券
コード
銘柄名 現法人の
採用年
備考(当時の商号等)
ガチ 1332 ニッスイ   日本水産
承継 1605 INPEX 2006年 帝国石油
ガチ 1801 大成建設    
ガチ 1802 大林組    
ガチ 1803 清水建設    
ガチ 1812 鹿島建設    
ガチ 1925 大和ハウス工業    
ガチ 2002 日清製粉グループ本社   日清製粉
承継 2269 明治HD 2009年 明治乳業、明治製菓
ガチ 2501 サッポロHD   サッポロビール
ガチ 2502 アサヒグループHD   アサヒビール
ガチ 2503 キリンHD   麒麟麦酒
ガチ 2531 宝HD   宝酒造
ガチ 2801 キッコーマン    
ガチ 2802 味の素    
ガチ 2871 ニチレイ    
承継? 3086 J.フロント リテイリング 2007年 当時松坂屋が採用→1991年除外→2007年にJ.フロントで再採用
承継 3099 三越伊勢丹HD 2008年 当時の三越(8231)から2003年に新設合併で三越(2779)に。2008年に三越伊勢丹HD(3099)に。
ガチ 3401 帝人    
ガチ 3402 東レ    
ガチ 3405 クラレ    
ガチ 3407 旭化成    
ガチ 3861 王子HD   王子製紙
ガチ 3863 日本製紙   十條製紙。2001:日本ユニパックHD(日本製紙G本社)発足(3863→3893)、2013:HD制を廃止し現日本製紙に(3893→3863に戻る)
ガチ 4004 レゾナック・HD   昭和電工
ガチ 4005 住友化学    
ガチ 4021 日産化学    
ガチ 4042 東ソー    
ガチ 4061 デンカ   電気化学工業
ガチ 4063 信越化学工業    
ガチ 4151 協和キリン   協和発酵
承継 4188 三菱ケミカルグループ 2005年 三菱化学
ガチ 4208 UBE   宇部興産
ガチ 4502 武田薬品工業    
ガチ 4503 アステラス製薬   山之内製薬
ガチ 4506 住友ファーマ   大日本製薬
承継 4568 第一三共 2005年 三共
ガチ 4901 富士フイルムHD   富士フイルム
ガチ 4902 コニカミノルタ   コニカ
承継 5019 出光興産 2019年 昭和シェル石油
承継 5020 ENEOSHD 2010年 日本石油、三菱石油
ガチ 5101 横浜ゴム    
ガチ 5108 ブリヂストン    
ガチ 5201 AGC   旭硝子
ガチ 5232 住友大阪セメント   住友セメント
ガチ 5233 太平洋セメント   小野田セメント
ガチ 5301 東海カーボン    
ガチ 5332 TOTO   東陶機器
ガチ 5333 日本碍子    
ガチ 5401 日本製鉄   新日本製鐵
ガチ 5406 神戸製鋼所    
承継 5411 JFEHD 2002年 川崎製鉄、日本鋼管
ガチ 5631 日本製鋼所    
ガチ 5706 三井金属鉱業    
ガチ 5711 三菱マテリアル   三菱金属
ガチ 5713 住友金属鉱山    
ガチ 5714 DOWAHD   同和鉱業
ガチ 5801 古河電気工業    
ガチ 5802 住友電気工業    
ガチ 5803 フジクラ   藤倉電線
ガチ 6103 オークマ   大隈鐵工所
ガチ 6301 小松製作所    
ガチ 6326 クボタ    
ガチ 6361 荏原製作所    
ガチ 6471 日本精工    
ガチ 6472 NTN    
ガチ 6473 ジェイテクト   光洋精工
ガチ 6501 日立製作所    
ガチ 6503 三菱電機    
ガチ 6504 富士電機    
承継 6674 ジーエス・ユアサ 2004年 ユアサコーポレーション
ガチ 6701 日本電気    
ガチ 6702 富士通    
ガチ 6752 パナソニックHD   松下電器産業
ガチ? 6753 シャープ   当時採用→2016年除外→2020年再採用
ガチ 6758 ソニーグループ   ソニー
ガチ 6841 横河電機    
ガチ 6902 デンソー   日本電装
ガチ 7004 日立造船    
ガチ 7011 三菱重工業    
ガチ 7012 川崎重工業    
ガチ 7013 IHI   石川島播磨重工業
ガチ 7201 日産自動車    
ガチ 7202 いすゞ自動車    
ガチ 7203 トヨタ自動車    
ガチ 7205 日野自動車    
ガチ 7261 マツダ    
ガチ 7267 本田技研工業    
ガチ 7269 スズキ   鈴木自動車工業
ガチ 7731 ニコン    
ガチ 7751 キヤノン    
ガチ 7752 リコー    
ガチ 7762 シチズン時計    
ガチ 7911 TOPPAN HD   凸版印刷
ガチ 7912 大日本印刷    
ガチ 7951 ヤマハ    
ガチ 8001 伊藤忠商事    
ガチ 8002 丸紅    
ガチ 8031 三井物産    
ガチ 8053 住友商事    
ガチ 8058 三菱商事    
ガチ? 8233 高島屋   当時採用→1991年除外→2001年再採用
承継 8306 三菱UFJFG 2001年 三菱銀行、東京銀行、三菱信託銀行
承継 8309 三井住友トラストHD 2002年 三井信託銀行
承継 8316 三井住友FG 2002年 住友銀行、三井銀行
承継 8411 みずほFG 2003年 富士銀行、第一勧業銀行
ガチ 8604 野村HD   野村證券
承継 8630 SOMPOHD 2010年 安田火災海上
承継 8725 MS&AD I G HD 2008年 三井海上火災
承継 8766 東京海上HD 2002年 東京海上火災
ガチ 8801 三井不動産    
ガチ 8802 三菱地所    
ガチ 9001 東武鉄道    
ガチ 9005 東急   東京急行電鉄
ガチ 9007 小田急電鉄    
ガチ 9008 京王電鉄    
ガチ 9009 京成電鉄    
ガチ 9101 日本郵船    
ガチ 9104 商船三井   大阪商船三井船舶、ナビックスライン
ガチ 9107 川崎汽船    
承継 9147 NIPPON EXPRESS HD 2022年 日本通運
ガチ 9202 ANAHD   全日本空輸
ガチ 9301 三菱倉庫    
ガチ 9432 日本電信電話    
ガチ 9501 東京電力HD   東京電力
ガチ 9503 関西電力    
ガチ 9531 東京瓦斯    
ガチ 9532 大阪瓦斯    
ガチ? 9602 東宝   当時採用→1991除外→2006再採用

内訳

合計銘柄数 129
ガチ(うちガチ?) 111(3)
承継(うち承継?) 18(1)

所感

入れ替わっているのは半分弱

内訳に記載の通り、当時から現在まで継続採用されている銘柄は129銘柄で、いったん除外された(?つき)4銘柄を除外しても125銘柄であった。125/225では56%が残留していることになるため3分の2どころか半分も入れ替わっていない。「半数近くが入れ替わっている」というのが正確だと思う。

セクターによる偏り

・銘柄コードも商号も同じ銘柄が目立つ業界

スーパーゼネコン、総合商社、自動車メーカー、私鉄

投資会社に変貌した商社や提携関係が複雑化した自動車が含まれるので「再編が無かった業界」ではないが「国内大手同士の再編が無かった業界」とは言えるだろう。

・銘柄コードや商号の変更が目立つ業界

銀行、保険、製薬、エネルギー、鉄鋼

こっちは業界大手同士の象徴的な再編が多かった業界である。

ウェイトベースでは7割が入れ替わっている

銘柄は半分程度が入れ替わっているが、これを指数のウェイトに引き直すと、継続採用129銘柄の構成比は30%程度に過ぎなかった。日経平均のウェイト上位20社中に、今回確認した継続採用銘柄は4銘柄しかない。

※2024年1月末基準・日経平均連動ETF(1321)の開示から計算

新規に採用された銘柄のパフォーマンスが既存銘柄よりも総じて良好だったのは確かである。だが、株式分割や株式併合があっても株価換算係数(みなし額面)で調整してウェイトに反映させない日経平均の計算方法にも問題があると思うので少しもやもやする。

おわり

以上です。

バブル最高値と現在の日経平均を比較すると

・銘柄数は半数弱が入れ替わっている

・構成比(ウェイト)では7割が入れ替わっている

というのが本稿の検証結果です。

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