本稿では、日経平均が最高値をつけた1989年の日経平均に採用されていた銘柄が現在何銘柄残っているかを見ていきます。
たまにメディアに出てくる1990年以降の銘柄入れ替えの回数を225で割って「3分の2以上が入れ替わっている」というのは個人的には雑な見方だと考えているので、もっと中身に踏み込んだことを書きます。
(参考)集計方法に関する注記と愚痴
本稿では「2023年末時点の日経平均の採用銘柄と1990年から2023年までの銘柄入れ替えを突合して1989年末から現在まで残っている銘柄を見る」というアプローチを取った。銘柄入替の履歴は公式サイト「日経平均プロファイル」から地道に取得した(2000年までは公表資料が閲覧可能。1999年から1990年までの履歴は2000年4月の日経平均の大規模変更に関する資料中に記載あり)。Wikipediaにも1970年以降の入替え履歴が載っているのだが、いくつか漏れがあったので上記の通り公式の資料を確認した次第。
めんどくさかった。こいういうのってBloombergのMEMB(指数の構成銘柄のを表示する機能)とかだと34年前まで遡れるのでしたっけ?
道案内:
「何社残っているか」ではなくて「1989年当時の採用銘柄のリスト」に興味がある方は↓の記事の方が参考になると思います。
目次(クリックで各項目にジャンプ)
史上最高値更新を見据える日経平均と数字の意味
追記:2024年2月22日に高値を更新しました!
日経平均が史上最高値をつけたのは今から34年と2ヶ月前のこと。
バブル期の日経平均の最高値
最高値を記録した日:1989年12月29日(平成元年の大納会)
終値ベースの最高値:38,915円87銭
ザラ場(取引時間中)を含めた最高値:38,957円44銭
2024年2月に日経平均が最高値更新を見据えた水準になったことで、当時と現在を比較する報道が多く見られるようになった。経済誌やテレ東はもちろん、普段は市況に無関心な民放でも取り上げられるようになっている。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/900001540.html?page1
一応確認すると、当時との比較でよく言われるのは以下の2点。
・PERが60倍を超えていた当時の日本株と異なり、現在の東証プライム市場のPERは今期予想ベースで16倍程度。バリュエーションの加熱感は無い。
・日経平均の採用銘柄は当時とは異なり半導体関連等のグローバルな銘柄が増え魅力度が高まっている。
個人的には、銘柄入替えがあり、時価総額加重(≒株式市場の規模を近似)ではない日経平均が過去最高値を抜いたとしても、そこに心理的な節目・高揚感以上の何かを見出すべきではないと考えている(もちろん高揚感はとても大切)。
入替え回数÷225で日経平均の変化を見ることの問題点
さて、「1989年 現在 日経平均 構成銘柄 違い」でググると
「1989年の日経平均と現在の日経平均では3分の2が入れ替わっている」
としている記事がいくつか見つかる。
会社四季報オンライン 2019年4月19日
https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/278175
東証マネ部(三井住友トラストアセット(SMTAM)の寄稿) 2021年5月14日
https://money-bu-jpx.com/news/article030543/
Yahooニュース(日刊ゲンダイ) 2024年2月14日
https://news.yahoo.co.jp/articles/556390ba84777df3fcda98a5d5e4464be3d834bc
この中では一番上の会社四季報オンラインの記事のみが誠実に計算方法を記載していて、
→1990年から記事執筆時までの日経平均の銘柄入替えの回数が148回
→現在残っているのが77銘柄(225-148)
→77/225=34%となり3分の2が入れ替わっている
というロジックである。
ただこれはあまり正確ではない方法だと言わざるを得ない。極端な例を出すと、225銘柄のうち特定の10銘柄が148回入替え対象になっていれば指数に残っているのは77銘柄ではなく215銘柄である。ここまで極端ではないものの、この期間に採用と除外の両方を経験した銘柄はいくつもある。
象徴的な例を挙げると
・2000年4月の日経平均の大規模変更(選定基準改定と30銘柄入替え)で採用された日本興業銀行は、同年9月に株式移転(みずほホールディングス発足)で上場廃止になったため指数から除外された。日経平均に採用されていた期間は半年未満である。
・2001年に採用された日本航空は2010年の経営破綻(会社更生法適用)で上場廃止になり指数から除外されたが、2012年に再上場し2023年に日経平均に再び採用された。
というようなことがあった。
また、このような指数の銘柄入替え回数の集計では、組織再編行為に関わる銘柄入替えを過剰にカウントしてしまう。
東証の上場制度では、株式移転等の新会社が新規上場する組織再編では新しい証券コードで別の銘柄として上場することになる。
cf.新会社が新規上場しない組織再編であれば新規上場も銘柄入替えも発生しない。例えば、上場会社同士の吸収合併では存続会社、株式交換であれば完全親会社が再編前と同じコードで上場継続する。
そのため、
日本通運(9062)が単独株式移転でNIPPON EXPRESSホールディングス(9147)を設立し持株会社化した(2021年12月)
という企業グループの実態が変わらない組織再編であっても、別銘柄なので指数上の取扱は「銘柄入替え1回」となる。同じ持株会社化でも、
丸井(8252)は新設分割で事業子会社の(新)丸井とエポスカードを新設し、親会社となる既存法人の商号を丸井グループに変更した(2007年9月)。
場合は同じ証券コード8252で上場し続けるため指数の銘柄入替えも発生しない。
また、
第一勧業銀行(8311)、富士銀行(8317)、日本興業銀行(8302)が株式移転で持株会社のみずほホールディングス(8305)を設立し経営統合した(2000年9月)
というケースでは、興銀、一勧、富士銀は3銘柄とも日経平均採用銘柄だったので、みずほホールディングスと他の2銘柄が新たに採用された。単純な入替え回数のカウントでは3回になるが、みずほホールディングスは株式移転前の3行の地位を継承する銘柄なので、入替え回数は2回とするのがより実態に即している。
こういった問題点から、本稿の集計では
・2023年末時点の日経平均の採用銘柄と1990年から2023年までの銘柄入れ替えを突合して1989年末から現在まで残っている銘柄を見る。
・組織再編の当事会社は可能な限り遡る。みずほフィナンシャルグループであれば1989年当時の採用銘柄の第一勧業銀行と富士銀行まで遡る。
という方針を取った。
1989年から2024年まで日経平均に採用されている銘柄
最終的には目視確認で判断しているので、漏れや違和感があればコメント欄かXで教えてください(特に区分が「承継」の銘柄)。
見方の説明
・当時と現在で証券コードの変更なく日経平均に採用されている銘柄は種別を「ガチ」とした。商号変更や組織再編を経ていたとしても上場法人が同じであればこちらに含まれる。
・組織再編で証券コードが変わっているが、当事会社の少なくとも1銘柄が当時も現在も日経平均に含まれている銘柄は種別を「承継」とした。現在上場している持株会社等が採用された年を「現法人の採用年」に記載する。
・途中で構成銘柄から除外されたことがある銘柄は「ガチ?」「承継?」とした。
・備考として当時の銘柄名を掲載した。当時の日経平均採用銘柄のみを記載しているので再編の当事会社を全て網羅していないことに留意。
(三菱UFJ FGの箇所に三和銀と東海銀が無い等)
リスト(←→スクロール対応)
種別 | 証券 コード | 銘柄名 | 現法人の 採用年 | 備考(当時の商号等) |
ガチ | 1332 | ニッスイ | 日本水産 | |
承継 | 1605 | INPEX | 2006年 | 帝国石油 |
ガチ | 1801 | 大成建設 | ||
ガチ | 1802 | 大林組 | ||
ガチ | 1803 | 清水建設 | ||
ガチ | 1812 | 鹿島建設 | ||
ガチ | 1925 | 大和ハウス工業 | ||
ガチ | 2002 | 日清製粉グループ本社 | 日清製粉 | |
承継 | 2269 | 明治HD | 2009年 | 明治乳業、明治製菓 |
ガチ | 2501 | サッポロHD | サッポロビール | |
ガチ | 2502 | アサヒグループHD | アサヒビール | |
ガチ | 2503 | キリンHD | 麒麟麦酒 | |
ガチ | 2531 | 宝HD | 宝酒造 | |
ガチ | 2801 | キッコーマン | ||
ガチ | 2802 | 味の素 | ||
ガチ | 2871 | ニチレイ | ||
承継? | 3086 | J.フロント リテイリング | 2007年 | 当時松坂屋が採用→1991年除外→2007年にJ.フロントで再採用 |
承継 | 3099 | 三越伊勢丹HD | 2008年 | 当時の三越(8231)から2003年に新設合併で三越(2779)に。2008年に三越伊勢丹HD(3099)に。 |
ガチ | 3401 | 帝人 | ||
ガチ | 3402 | 東レ | ||
ガチ | 3405 | クラレ | ||
ガチ | 3407 | 旭化成 | ||
ガチ | 3861 | 王子HD | 王子製紙 | |
ガチ | 3863 | 日本製紙 | 十條製紙。2001:日本ユニパックHD(日本製紙G本社)発足(3863→3893)、2013:HD制を廃止し現日本製紙に(3893→3863に戻る) | |
ガチ | 4004 | レゾナック・HD | 昭和電工 | |
ガチ | 4005 | 住友化学 | ||
ガチ | 4021 | 日産化学 | ||
ガチ | 4042 | 東ソー | ||
ガチ | 4061 | デンカ | 電気化学工業 | |
ガチ | 4063 | 信越化学工業 | ||
ガチ | 4151 | 協和キリン | 協和発酵 | |
承継 | 4188 | 三菱ケミカルグループ | 2005年 | 三菱化学 |
ガチ | 4208 | UBE | 宇部興産 | |
ガチ | 4502 | 武田薬品工業 | ||
ガチ | 4503 | アステラス製薬 | 山之内製薬 | |
ガチ | 4506 | 住友ファーマ | 大日本製薬 | |
承継 | 4568 | 第一三共 | 2005年 | 三共 |
ガチ | 4901 | 富士フイルムHD | 富士フイルム | |
ガチ | 4902 | コニカミノルタ | コニカ | |
承継 | 5019 | 出光興産 | 2019年 | 昭和シェル石油 |
承継 | 5020 | ENEOSHD | 2010年 | 日本石油、三菱石油 |
ガチ | 5101 | 横浜ゴム | ||
ガチ | 5108 | ブリヂストン | ||
ガチ | 5201 | AGC | 旭硝子 | |
ガチ | 5232 | 住友大阪セメント | 住友セメント | |
ガチ | 5233 | 太平洋セメント | 小野田セメント | |
ガチ | 5301 | 東海カーボン | ||
ガチ | 5332 | TOTO | 東陶機器 | |
ガチ | 5333 | 日本碍子 | ||
ガチ | 5401 | 日本製鉄 | 新日本製鐵 | |
ガチ | 5406 | 神戸製鋼所 | ||
承継 | 5411 | JFEHD | 2002年 | 川崎製鉄、日本鋼管 |
ガチ | 5631 | 日本製鋼所 | ||
ガチ | 5706 | 三井金属鉱業 | ||
ガチ | 5711 | 三菱マテリアル | 三菱金属 | |
ガチ | 5713 | 住友金属鉱山 | ||
ガチ | 5714 | DOWAHD | 同和鉱業 | |
ガチ | 5801 | 古河電気工業 | ||
ガチ | 5802 | 住友電気工業 | ||
ガチ | 5803 | フジクラ | 藤倉電線 | |
ガチ | 6103 | オークマ | 大隈鐵工所 | |
ガチ | 6301 | 小松製作所 | ||
ガチ | 6326 | クボタ | ||
ガチ | 6361 | 荏原製作所 | ||
ガチ | 6471 | 日本精工 | ||
ガチ | 6472 | NTN | ||
ガチ | 6473 | ジェイテクト | 光洋精工 | |
ガチ | 6501 | 日立製作所 | ||
ガチ | 6503 | 三菱電機 | ||
ガチ | 6504 | 富士電機 | ||
承継 | 6674 | ジーエス・ユアサ | 2004年 | ユアサコーポレーション |
ガチ | 6701 | 日本電気 | ||
ガチ | 6702 | 富士通 | ||
ガチ | 6752 | パナソニックHD | 松下電器産業 | |
ガチ? | 6753 | シャープ | 当時採用→2016年除外→2020年再採用 | |
ガチ | 6758 | ソニーグループ | ソニー | |
ガチ | 6841 | 横河電機 | ||
ガチ | 6902 | デンソー | 日本電装 | |
ガチ | 7004 | 日立造船 | ||
ガチ | 7011 | 三菱重工業 | ||
ガチ | 7012 | 川崎重工業 | ||
ガチ | 7013 | IHI | 石川島播磨重工業 | |
ガチ | 7201 | 日産自動車 | ||
ガチ | 7202 | いすゞ自動車 | ||
ガチ | 7203 | トヨタ自動車 | ||
ガチ | 7205 | 日野自動車 | ||
ガチ | 7261 | マツダ | ||
ガチ | 7267 | 本田技研工業 | ||
ガチ | 7269 | スズキ | 鈴木自動車工業 | |
ガチ | 7731 | ニコン | ||
ガチ | 7751 | キヤノン | ||
ガチ | 7752 | リコー | ||
ガチ | 7762 | シチズン時計 | ||
ガチ | 7911 | TOPPAN HD | 凸版印刷 | |
ガチ | 7912 | 大日本印刷 | ||
ガチ | 7951 | ヤマハ | ||
ガチ | 8001 | 伊藤忠商事 | ||
ガチ | 8002 | 丸紅 | ||
ガチ | 8031 | 三井物産 | ||
ガチ | 8053 | 住友商事 | ||
ガチ | 8058 | 三菱商事 | ||
ガチ? | 8233 | 高島屋 | 当時採用→1991年除外→2001年再採用 | |
承継 | 8306 | 三菱UFJFG | 2001年 | 三菱銀行、東京銀行、三菱信託銀行 |
承継 | 8309 | 三井住友トラストHD | 2002年 | 三井信託銀行 |
承継 | 8316 | 三井住友FG | 2002年 | 住友銀行、三井銀行 |
承継 | 8411 | みずほFG | 2003年 | 富士銀行、第一勧業銀行 |
ガチ | 8604 | 野村HD | 野村證券 | |
承継 | 8630 | SOMPOHD | 2010年 | 安田火災海上 |
承継 | 8725 | MS&AD I G HD | 2008年 | 三井海上火災 |
承継 | 8766 | 東京海上HD | 2002年 | 東京海上火災 |
ガチ | 8801 | 三井不動産 | ||
ガチ | 8802 | 三菱地所 | ||
ガチ | 9001 | 東武鉄道 | ||
ガチ | 9005 | 東急 | 東京急行電鉄 | |
ガチ | 9007 | 小田急電鉄 | ||
ガチ | 9008 | 京王電鉄 | ||
ガチ | 9009 | 京成電鉄 | ||
ガチ | 9101 | 日本郵船 | ||
ガチ | 9104 | 商船三井 | 大阪商船三井船舶、ナビックスライン | |
ガチ | 9107 | 川崎汽船 | ||
承継 | 9147 | NIPPON EXPRESS HD | 2022年 | 日本通運 |
ガチ | 9202 | ANAHD | 全日本空輸 | |
ガチ | 9301 | 三菱倉庫 | ||
ガチ | 9432 | 日本電信電話 | ||
ガチ | 9501 | 東京電力HD | 東京電力 | |
ガチ | 9503 | 関西電力 | ||
ガチ | 9531 | 東京瓦斯 | ||
ガチ | 9532 | 大阪瓦斯 | ||
ガチ? | 9602 | 東宝 | 当時採用→1991除外→2006再採用 |
内訳
合計銘柄数 | 129 |
ガチ(うちガチ?) | 111(3) |
承継(うち承継?) | 18(1) |
所感
入れ替わっているのは半分弱
内訳に記載の通り、当時から現在まで継続採用されている銘柄は129銘柄で、いったん除外された(?つき)4銘柄を除外しても125銘柄であった。125/225では56%が残留していることになるため3分の2どころか半分も入れ替わっていない。「半数近くが入れ替わっている」というのが正確だと思う。
セクターによる偏り
・銘柄コードも商号も同じ銘柄が目立つ業界
スーパーゼネコン、総合商社、自動車メーカー、私鉄
投資会社に変貌した商社や提携関係が複雑化した自動車が含まれるので「再編が無かった業界」ではないが「国内大手同士の再編が無かった業界」とは言えるだろう。
・銘柄コードや商号の変更が目立つ業界
銀行、保険、製薬、エネルギー、鉄鋼
こっちは業界大手同士の象徴的な再編が多かった業界である。
ウェイトベースでは7割が入れ替わっている
銘柄は半分程度が入れ替わっているが、これを指数のウェイトに引き直すと、継続採用129銘柄の構成比は30%程度に過ぎなかった。日経平均のウェイト上位20社中に、今回確認した継続採用銘柄は4銘柄しかない。
※2024年1月末基準・日経平均連動ETF(1321)の開示から計算
新規に採用された銘柄のパフォーマンスが既存銘柄よりも総じて良好だったのは確かである。だが、株式分割や株式併合があっても株価換算係数(みなし額面)で調整してウェイトに反映させない日経平均の計算方法にも問題があると思うので少しもやもやする。
おわり
以上です。
バブル最高値と現在の日経平均を比較すると
・銘柄数は半数弱が入れ替わっている
・構成比(ウェイト)では7割が入れ替わっている
というのが本稿の検証結果です。