この記事では、いろいろな時価総額を取り上げていきます。
※12月の東証の市場改革のニュースを受けて「流通株式」と「浮動株」の比較にフォーカスした記事も書きました。
ぜひあわせてお読みください。
「流通時価総額」「流通株式時価総額」「浮動株」の違い
2021年追記 このページの記事は、2019年12月に、東証の市場制度改革において流通株式の定義の見直しが見込まれることが最初に報じられたと ...
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時価総額は砂上の楼閣
例えば、以下のような事例を考えてみてください。
ある会社の子会社が上場しています。
子会社の株の64%は親会社が保有しているため、市場では取引されません。
にもかかわらず、一般的に「時価総額」といった場合は、
上場子会社の株価×上場子会社の全発行済株式数
で計算されます。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれません、これはNTTドコモ(9437)の例です。
また、2019年12月に現地の取引所に上場が予定されているサウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコもこれと似ています。
今回は同社の発行済株式のうち1.5%のみが売り出されます。
サウジの富の象徴である巨大企業のため、ごく一部の売出しでも資金調達の規模は最大255億米ドル(2.8兆円程度)に上る見込みです。
ただ、各種報道を見ていると、今回売り出されない分を含めたアラムコの発行済株数2,000億株に基づいて時価総額を計算し
「時価総額は最大1.7兆米ドル(185兆円)となり、アップルやマイクロソフトを上回る規模になる」
と言われています。
実際には取引されないポーションも含めて計算された時価総額は、どこか砂上の楼閣のような危うさと胡散臭さを感じます。
ただ、単に「時価総額」というと、市場で流通している部分だけではなく、会社の発行済株式全てで計算するのが報道でも金融情報サイトでも一般的です。
取引実態に即した時価総額の指標
その一方で、実務では、より市場での取引量に即した時価総額の指標を導入している場合があります。
ここでは浮動株調整と流通株式時価総額というアイデアについて解説します。
浮動株調整時価総額
時価総額加重平均の株価指数(TOPIXやMSCI)では、銘柄ごとのウェイト(構成割合)の決定に浮動株調整後の時価総額を使います。
※時価総額加重平均の株価指数というのは時価総額の大きな会社ほどウェイトが高くなるように計算される株価指数です。
ベースにあるのは「市場で流通していない部分は時価総額の計算から控除する」という考え方です。
指数の算出者によって方法は様々ですが
・大株主(5%、10%以上等)が保有する持分は時価総額に含めない
(信託銀行やカストディアンのようなファンド等の資産管理のため名義上の株主になっている大株主はこれに当たらない(時価総額に含める))
・法律で保有制限がある部分は、時価総額に含めない
(国が必ずXX%保有する、外国人はXX%までしか保有できない(外国人保有制限)等)
という調整がされることが多いです。
先程のアラムコの例で見てみましょう。
今年の5月からサウジアラビアはMSCI Emerging Markets Indexの構成国に追加されています。
そのため、アラムコが現地に上場すれば、同社がMSCIエマージング指数に採用される可能性があります。
ただし、MSCIは指数の算出にあたって浮動株調整を行いますので、通常の大型銘柄の新規上場と同等程度のインパクトはあるかもしれませんが、指数全体の構成が大きく変わるような影響は考えにくいです。
流通株式時価総額
もう一つが、流通株式時価総額という指標です。
これは、東京証券取引所が、上場廃止基準の審査に使っている時価総額の一つです。
以下のような「流通株式」ベースで計算した時価総額です。
流通株式=
全上場株式ー(役員所有株式数+自己株式数+10%以上の大株主の持ち分)
(投資信託等の持分は大株主に含めない)
用途は異なるものの、ベースにあるのは浮動株調整と同様により取引実態に近いベースの時価総額を見ようという考え方だと思います。
ちなみに、具体的な上場廃止等の基準は以下のようなものがあります。
決算期末の流通株式時価総額が
⇛10億円未満⇛市場第1部から第2部への指定替え
⇛5億円未満⇛上場廃止(1部と2部の銘柄、マザーズ等はもっとゆるい)
※猶予期間内が決められており、猶予期間内に解消できればクリア。
取引所の上場廃止基準には、流通株式時価総額の他にも、通常の全株ベースの時価総額をもとにしたものもあるのですが、上場子会社や経営再建中でスポンサーの持ち分が多い会社では、通常の時価総額の基準はクリアできても流通株式時価総額が基準に引っかかる場合もあります。
おわり
以上です。
時価総額にモヤモヤを感じていた方の参考になれば嬉しいです。