株式投資

東証の流通株式時価総額の定義変更で何が変わるか

2022年4月に東京証券取引所が市場区分の再編を行います。
現行の市場第一部、第二部、マザーズ、ジャスダックの区分を再編し、「プライム」「スタンダード」「グロース」に再編する計画です。

この中で、東証が上場審査と上場廃止基準で使用する「流通株式」の定義が見直されます。
これは、2019年に実施された金融庁の審議会でも言及されていましたが、2020年12月に東証から変更後の具体的な計算方法が公表されました。
本稿ではこの「流通株式」の定義の変更について、現在の基準との違い等の観点から解説します。

東証の資料

2020年12月公表「市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項)
2021年2月公表「第二次制度改正事項に関するご説明資料」

https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/index.html

当サイトの過去の解説記事

「流通時価総額」「流通株式時価総額」「浮動株」の違い

2021年追記 このページの記事は、2019年12月に、東証の市場制度改革において流通株式の定義の見直しが見込まれることが最初に報じられたと ...

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流通株式とは

流通株式とは、東証が新規上場や上場廃止基準の審査で使用している考え方で、
「上場会社の発行済株式のうち市場での取引が見込まれるもの」です。

一般的に「時価総額」は株式の時価に全発行済株式数を乗じて計算します。
ただ、親子上場における親会社や創業者兼現経営者のような大株主が保有する株式は、通常は市場では売買されません
例えば、サウジアラビアの国営石油会社のサウジアラムコは単純な時価総額ではAppleやマイクロソフトに並ぶと報じられることが多いですが、同社が2019年のIPOで売り出した株式は全体の1.5%に過ぎないため、株式市場におけるプレゼンスは米国の巨大IT企業と比べるとはるかに小さいです。
(MSCIエマージング指数の0.3%程度のウェイト)

それゆえ、市場における上場会社の存在感をより正確に判定するために、市場での売買(流通)が見込まれる株式(流通株式)の基準を定め、それに基づく時価総額(流通株式時価総額)を上場廃止基準等の審査に使うのです。

流通株式は東証が上場制度の中で使用している考え方ですが、指数算出会社が時価総額加重平均指数の算出で使う「浮動株調整時価総額」も同じ目的であり計算方法もよく似ています。

現行の流通株式の定義

現在の東証の流通株式の定義は以下のものです。

流通株式=全上場株式ー(10%以上の大株主の持ち分+役員所有株式+自己株式)

有価証券上場規程と同施行規則では、投信や信託ファンドの持ち分は流通株式に含めると規定しているため、10%以上の大株主として日本マスタートラスト信託銀行や日本カストディ信託銀行(旧JTSBとTCSB)名義のものがあっても、それは流通株式として扱われます。
これに基準時点の株価を乗じて流通株式時価総額を計算します。

新制度における流通株式

一方、東証が2020年12月・2021年2月に公表した新制度のもとでは、流通株式は以下のように計算されます。

流通株式=全上場株式ー(10%以上の大株主の持ち分+役員所有株式+自己株式+国内の普通銀行、保険会社、事業法人等が所有する株式+その他取引所が固定的と認める株式)

青字部分は現行と同じで、赤字が新設される部分です。

国内の普通銀行、保険会社、事業法人等が所有する株式

新制度では「国内の普通銀行、保険会社、事業法人等が所有する株式」は流通株式に含めません。
これは、企業間の持ち合い株式(政策保有株式)の除外を念頭に置いた規定です。
MSCIのようなグローバルな指数算出会社が浮動株比率の算定にこれと似た基準を設けているので、新制度でも考慮したのではないかと推測します。
これには、直近の大量保有報告書等で保有目的が「純投資」となっている株数については流通株式に含めるという例外が設けられています。

新基準では、「事業法人等」を全て除外するため、提携等による持ち合いに限らず法人投資家が保有する株式は広く流通株式から除外されます。
これは、算出の利便性を考慮した制度設計だと推測します。
法人名義の株主について、持ち合いか純投資かを個別に判定するのは非常に手間がかかるので、株主の属性で一括で除外し、影響が大きいものについてのみ大量保有報告書の例外規定で拾うことを想定しているのだと思います。

その他取引所が固定的と認める株式

2021年2月の東証の資料によると、これは「10%以上の大株主の持ち分」としてカウントされないようにするために意図的に名義を分散させた場合のような有価証券上場規程の潜脱に対処するための規定のようです。

2000年代から日本株を見ている人は覚えていると思いますが、かつて西武鉄道が上場廃止になったのは、複雑な名義貸しにより株主名簿を偽っていたことが理由です。
取引所としては西武鉄道が前例としてあるため、流通株式数の上場廃止基準を回避するための株主名簿の操作への対処として明示したのだと考えられます。

新旧の流通株式時価総額の基準

新旧の流通株式時価総額による上場廃止基準は以下のとおりです。
これ以外にも流通株式数そのものの上場廃止基準があるほか、新規上場の審査や市場一部への指定の審査ではこれよりも厳しい基準が使われます。

現行
流通株式時価総額

10億円未満 市場一部から市場二部へ指定替え(降格)
5億円未満   市場二部とマザーズの上場廃止基準
2.5億円未満 ジャスダックの上場廃止基準

新制度
流通株式時価総額
100億円未満 プライム市場の上場維持(廃止)基準
10億円未満   スタンダード市場の上場維持(廃止)基準
5億円未満    グロース市場の上場維持(廃止)基準

流通株式時価総額に限りませんが、新制度では、プライムには現行の一部よりも厳しい基準、スタンダードは現行一部と同じ基準、グロースは現行マザーズと同じ基準を採用したようです。
また、新制度では、現在の市場一部から二部への指定替え(降格)のような仕組みはなく、上場維持(廃止)基準を満たせなくなった場合は、会社から市場変更の申し出が無い限りそのまま上場廃止になるようです。

おわり 日銀は新旧いずれも流通株式

以上です。

今回の流通株式の見直しでは、持ち合い株式の流通株式からの除外が追加され、MSCI等の指数算出会社の浮動株比率に近くなりました
一方で、指数算出会社は政府保有株式や外国人保有制限を浮動株から控除するため、引き続き差異もあります。

なお、現在の日本株の価格形成に大きな影響を与えている株主はETFを介して保有している日銀ですが、これは新旧どちらの基準でも投資信託による持ち分として流通株式とカウントされることになります。

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