投資信託 ファイナンス理論

トラッキング・エラーの定義と見方

ファンドの評価指標にトラッキング・エラー(T.E.)という数字があります。
アクティブファンドでもインデックスファンドでも重要な指標です。

本稿では、トラッキングエラーの定義、数字の目安、実績T.E.と推定T.E.の違いについて解説します。

トラッキング・エラーの定義

トラッキングエラーとは、ファンドの超過収益率(アクティブリターン)の標準偏差です。

標準偏差に馴染みが無い方のために言葉で説明します。

①期間ごとの、ファンドのリターンからベンチマークのリターンを引いたもの(超過収益率)を計算したい期間分用意します(x1~xn)。
月次か週次が現実的です。

②期間ごとの超過収益率(x1~xn)の平均を計算します(xav)。

各期間の超過収益率(①)から超過収益率の平均(②)を引いたものの2乗を合計します
(Σ{(xi-xav)の2乗})。

期間数(または期間数-1)で割った後に平方根を取ります。

⑤最初に用意したデータが月次や週次だとそのままではイメージがつかみにくいので、年率換算します(月次データを使っている時は√12、週次データは√52を掛けます)。

式にすると以下のとおりです(標準偏差の式そのままです。)。

$$トラッキング・エラー=\sqrt{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}{(x_i-x_{av})^2}}$$

 

トラッキング・エラーの意味・目安

トラッキングエラーは、ファンドの超過収益率がどれくらいバラつくのかという指標です。
2乗したあとに平方根を取っているので、必ずプラスになります。
年率のトラッキングエラーが5%であれば、年間のファンドの収益率がベンチマークから5%乖離するような運用をしていたということです。

アクティブファンドの場合

アクティブファンドはベンチマークに勝とうとするファンドなので、運用戦略ごとに想定するトラッキングエラーの水準があります。
自分が様々なファンドをデューデリ(調査)した経験則では、一般的なアクティブファンドで3%以上、集中投資をウリにするのであれば5-7%程度のトラッキング・エラーを想定しているものが多かったです。
アクティブファンドなのにトラッキング・エラーが低いと、ベンチマークと大差ない運用をしているのには手数料だけが高いということで、資金の出し手から白い目で見られることがあります。
スポンサー(年金や金融法人等の機関投資家)やコンサル(スポンサーのために運用会社の評価をする会社)によっては、このあたりも結構厳しいです。

パッシブ(インデックス)ファンドの場合

ベンチマークに連動させることが目的のインデックスファンドでは、トラッキングエラーはゼロに近いほど良いです。ただ、実際には偶然の一致以外ではゼロになりません。
以下は、あるTOPIXインデックスファンドの配当再投資基準価額とTOPIX(配当含まないベース)の収益率でトラッキングエラーを計算したものです。
Excelで計算する場合は、超過収益率の列(B-A)を作って、標準偏差の関数(STDEV.S等)で計算すると簡便です。

(期間は中途半端で25ヶ月です。実務では3年か5年で測ることが多いです。)

見ての通り、そのまま計算すると年1.08%も乖離するような数字が出ます。

これは国内株なので、3月と9月の配当落ちの影響がほとんどだと思います。
指数がプライスリターン(配当なし)で、基準価額には受取配当金が含まれているので、その分が乖離します。
機関投資家向けのファンドでは、ベンチマークを配当込みTOPIXなどのトータルリターンの指数にしているものがほとんどだと思いますが、リテールだとプライスリターンのファンドも多いです。

また、投資対象が外国株だと為替の時点の問題が入ってくるので、計算自体が結構複雑です。別エントリで詳しく検討しています。

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実績トラッキングエラーと推定トラッキングエラー

さて、紛らわしいのですが、トラッキングエラーには実績トラッキングエラーと推定トラッキングエラーがあります。

実績トラッキングエラー

上で紹介した計算は実績トラッキングエラーです。
ファンドが過去に実現したパフォーマンス実績に基づいて計算しています。

推定トラッキングエラー

推定トラッキングエラー(ex ante(エックス・アンテ)のトラッキングエラーとも言います)は、ファンドとベンチマークの資産構成の違いをBarraなどのリスクモデルで分析して、超過収益率がどれくらいになりそうかを推計したものです。
実際にどうだったかではなく、これからどうなりそうかを見ているので「推定」トラッキングエラーというわけです。

リテールの商品に関する情報だと、推定トラッキングエラーが出てくることは稀です。
証券会社や評価会社の情報でも実績トラッキングエラーだけしか出てないか、そもそも実績トラッキングエラーすら見つけることが困難です。

 

おわり:関連記事のご紹介

以上です。
複数のパッシブファンド(インデックスファンド)を実績リターンで比較している方もいますが、それはファンドの評価方法としては誤りです。インデックスファンドの優劣はT.E.の小ささで評価すべきです。
ただ、現実問題として、多くのリテールの投資信託では配当込みのベンチマークに対するトラッキングエラーが公表されていないため、評価軸として使いにくいのも事実です。
以下の記事では、この問題にもっと踏み込んでいます。併せてご覧いただければ嬉しいです。

↓の記事では、公募投信だとトラッキングエラーの数字がなかなか手に入らないし、数字もイマイチだという話をしています。

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  • この記事を書いた人

ton

2007年から運用会社や金融機関の運用部門で株を中心に見てきました。 現在は運用業務からは離れていて運用は自己資金のみ。 投信の請求目論見書や指数の算出要領からプロダクトの中身に迫るのが好き。

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