ファイナンス理論

エクセルでマルチファクターモデルを実装する方法

この記事では、マルチファクターモデルによる株式ポートフォリオ分析をExcelで行う場合のアプローチについて解説します。
市場ファクター、サイズファクター、バリューファクターによる3ファクターモデルで具体的に計算して行きます。

様々なマルチファクターモデルと実務での利用

証券投資論の教科書の多くにマルチファクターモデルという言葉が出てきます。日本語のGoogle検索結果で一番上に出てくる三菱UFJ信託銀行の解説を引用すると

株式や債券などのリターンの形成要因を、複数のファクターにより表す統計的モデル。
実際に使用されているものでは、BarraモデルやFama-Frenchモデルなどが有名で、複数のファクターを選定することでリターンやリスクを分解することができ、寄与度分析やリスク推計を行うことが可能である。

三菱UFJ信託銀行 年金用語集

ということになります。

個別銘柄の分析に使用する場合も、ポートフォリオの分析に使うこともあります。前者は超過収益の獲得、後者はリスク管理が主目的です。

解説に登場するBarraモデルというのは、バー・ローゼンバーグ博士が開発したモデルです。2004年にMSCIが運営会社を買収し、現在では同社が提供しています。
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運用会社の実務で常用されているだけでなく、運用会社の顧客である年金等の機関投資家からもBarraベースの計数の報告を求められることがあります。
高額なだけあって、業種や財務数値など多くのファクター(要因)を推計できます。

次に挙げられているFama-Frenchモデルでは、3~5つのファクターを使います。特にファーマ=フレンチの3ファクターモデルは標準的な教科書ならだいたい載っていると思います。市場ファクター、サイズファクター、バリューファクターを使います。

この3ファクターモデルを使って、日本株アクティブファンドのリターンを分析してみようというのが今回の目的です。
「個人がエクセルで出来る」を主眼に置いて、ファクターリターンはスタイル別インデックスの収益率を使い、エクセルの分析ツールで回帰分析します。

エクセルで3ファクターモデル

今回対象にするファンドはレオス・キャピタルワークスが運用する「ひふみ投信」です。同じ運用戦略の「ひふみプラス」は公募投信では最大の日本株アクティブファンドです。2017年から外国株も一部組み入れていますが、ここでは日本株ファンドと考えて見ていきます。
対象期間は2013年末から2018年末までの5年間にします。また、精度にはマイナスですが、月次ベースでやります。

ステップ1:ファンドとファクターのリターンを用意する

1.ファンドのリターン

このファンドは運用会社のサイトでは過去の基準価額がダウンロードできないので、モーニングスターのサイトを使いました。非常に便利なサイトです。

 

2.市場ファクター

配当込TOPIXから10年債利回りを引いて、市場ファクターのリターンを出します。
配当込TOPIXは有料購入以外では入手できなさそうなので、TOPIX連動ETFの基準価額に分配金を調整したもので代用します。今回は一番規模の大きい1306にしました。

10年債利回りは財務省のウェブサイトから入手できます。年率の数字なので、後で月次に換算(12で割る)して使います。
昭和49年以降の数字が出ています。脱線しますが「昭和49年って逆イールドだったのか」という明後日な気付きがありました。

 

 

3. サイズファクターとバリューファクター

本家Fama-Frenchはユニバース(S&P500)を時価総額で3分位、簿価時価比率(PBRの逆数)で3分位に分け、合計9つのサブグループを使って分析しています。
ただ、TOPIXの全構成銘柄を同様に分類して検討するのは個人投資家の環境では現実的では無いと思うので、ここではスタイル別インデックスの収益率で代用します。

日本株のスタイル別指数では一番メジャーな、ラッセル野村の指数を使います。
算出会社のデータダウンロードサービスに、円ベースの「月次リターン(配当含む)」があります。

ラッセル野村のスタイル別指数には多くのサブグループがありますが、ここでは「Mid-Small」の収益率から「TOP」の収益率を引いたものをサイズファクター(中小型株効果)に、「Total Market Value」の収益率から「Total Market Growth」の収益率を引いたものをバリューファクターに使います。

ステップ2:データを整形して並べる

月次の収益率を計算して並べます。
ファンドとTOPIX代替のETFの基準価額から、それぞれの月次リターンを計算します。分配金については落ちた月の月末の基準価額に足して調整するのが簡便です。10年債利回りは月末の数字を月次に換算(12で割る)して使います。
スタイル別インデックスは最初から月次ベースなので、そのまま引き算して使います。

ステップ3:回帰分析する

Excelで重回帰分析をする場合は、「データ⇛データ分析⇛回帰分析」(データ分析機能)でやるか、配列数式のLINEST関数を使う方法があります。
LINEST関数は操作が簡単ですが結果が見づらいので今回はデータ分析機能を使います。

Excel上部のリボンから「データ⇛データ分析」を選択し、ポップアップで回帰分析を選びます。

ポップアップに必要な項目を入力します。
入力Y範囲にファンドの月次リターン、入力X範囲に市場ファクターからバリューファクターまでの3列の範囲を入れます。なお、ここで一列だけを選ぶと単回帰分析になります。
また、範囲の先頭の項目の名前を含めて指定し、「ラベル」にチェックすると結果にも項目名が出てきて便利です。

ステップ4:結果を確認する

今回の回帰分析の結果は以下のとおりでした。

「補正R2」が統計学の一般的な用語の「自由度調整済決定係数」です。0.80程度なのでモデルの当てはまりはなかなか良いと言えそうです。

切片は、3つのファクターに依存しないファンドの超過収益率、いわゆるアルファです。
月次で0.0035なので、年率換算(×12)すると4.2%とかなり高い数字です。
ただ、t値が1.39で2を下回るので統計的に有意とは言えません。

続く3つの項目は、それぞれ、市場ファクター、サイズファクター(小型株効果)、バリューファクター(バリュー効果)に対する負荷(エクスポージャー)です。
市場ファクターとサイズファクターは1に近いですが、バリューファクターはマイナスになっており、グロースバイアスがあることが分かります。
t値はいずれも2以上またはマイナス2以下なので、統計的に有意と言える水準です。

おわりに:ファクターモデルから何が分かるか?

このように、ファクターの収益率にスタイル別インデックスやETFの収益率を使うと、個人の環境でもファクターモデルのようなことが出来ます。

あくまで過去の数字をもとにした分析なので未来を保証するものではありませんが、ファクターモデルの含意は以下の2つだと思います。

1.運用者の運用力の評価

パフォーマンスが良好なファンドがあったときに、それがファクター効果によるものか、ファクターで説明できない超過収益(アルファ)によるものなのか検討する材料になります。

2.ポートフォリオの複製

スタイル別ETFのような低コストでファクター収益を享受できる資産が活用できるなら、それらを組み合わせて目的のポートフォリオに近づけることが出来ます。
今回の例であれば、金利を除くと

TOPIXファンドを9114円購入
+(中小型株ファンドを9883円分購入&大型株ファンドを9883円分空売り)
+(バリュー株ファンドを3228円分空売り&グロース株ファンドを3228円分購入)

の組み合わせで、切片を除く部分の複製が出来るという含意です。

実際にはスタイル別のETFがあっても流動性が低かったり、ショートを構築するコストが高くつくので難しいことも多いです。ただ、この「ファクターからもたらされる収益は複製可能」という視点が、上記の運用力の評価にもつながっています。

粗い部分もありますが、検討の一助になれば幸いです。

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