投資信託

投信の基準価額という不思議でマニアックな数字

2018年2月11日

本稿では投信の基準価額の定義や算出方法のクセについて解説します。
Googleの予測変換にも両方出てきますが、「基準価格」ではなく「基準価額」が正解です。
 基準価額というのは、投資信託の時価を表す数値です。
「ファンドの価格でしょ?」と言われればそれまでなのですが、私はこの概念はややこしくて取っ付きにくいと感じていました。そこらへんも含めてご説明します。
まとめを先に書いておきます。
それぞれ、本文の大きい段落に対応しています。
  • 基準価額は、計算日におけるファンド(投信)の純資産総額をファンドの総口数で割ったもの
  • ほとんどの追加型の公募投信は、1口1円で設定されるが、基準価額は1万口あたりで表示している。
  • 単純に1万口あたりの基準価額と自分の保有口数をかけ算すると、桁が4つ大きくなってしまう。
  • 時価評価の時点は原則は計算日当日の終値
  • 外国の株や債券に投資する場合は計算日の前営業日の時価と当日の為替レート(TTM)で評価する。外国籍投信を保有する場合はもっと複雑。

基準価額とは

基準価額は「特定の日におけるファンド(投信)の純資産総額をファンドの総口数で割ったもの」です。
詳しく見ていきます。
 

「特定の日」

「計算日」と言います。
公募投信であれば、土日祝日を除く毎営業日が計算日です。
上場株式であれば、一日における取引ごとに約定価格があって、始値、高値、安値、終値が四本値と言われて一日の市況を見る時によく触れられます。
それに対して、基準価額は1つの計算日につき1つだけ算出され、夕方に公表されます。
ABCファンドの2018年2月9日の基準価額はX,XXX円という具合です。

「純資産総額」

投資信託の会計(「計理」という言葉使われます)では、時価ベースの複式簿記でファンドの資産状況が記録されます。
株式会社と同じように、投資信託のファンド一つ一つについて、貸借対照表や損益計算書が作られています。
投資信託の会計のための会計規則が決まっているほか、投資信託協会の自主規制規則があり、それらのルールに沿って計算されます。
純資産総額とは、ファンドの貸借対照表の時価評価した資産の総額から負債の総額を引いたものです。
この純資産総額は英語だとNet Asset Valueと言います。
頭文字を取ってNAV、日本人はナヴと言うことが多いですが、外国人にはエヌ・エー・ブイと言う方が伝わります。
外国籍のファンドでは、NAVまたはNAV per unit(share)が基準価額とほぼ同じ意味です。
 
・資産
普通に運用されているファンドであれば、投資対象の有価証券(株や債券)と、証券の購入に使っていない現金を資産として保有しています。
また、上場株式の配当金は配当落ち日に未収配当金を計上しますので、未収配当金のような未収項目も資産です。
・負債
通常、契約型の投資信託では借入金によるレバレッジはかけません(投資法人のREITは借入や債券で資金調達をします。)。
従ってファンドの負債としてよく出てくるのは、未払いの運用報酬や証券を購入して受渡日が来ていない分の未払金などの未払項目です。
 
 
今回は触れませんが、ファミリーファンド方式で運用されているファンドでは、ベビーファンドの保有資産がマザーファンドの受益証券だけだったり、費用はベビーファンドだけに計上されていたりと、形態を反映したものになっています。
 

「総口数」

はい出ました口数。
ファンドは、複数の投資家から資金を集めて、それを合同で運用するための箱です。
投資家が購入できる箱の単位を口と言います。
株式にあてはめると「株数」です。
一株10,000円で100万株発行すれば100億円調達したことになります。
一口1円で100億口の信託受益権を発行すれば100億円調達したことになります。
純資産総額が123億円のファンドが、計算日の時点で100億口の受益証券を発行していれば、1口あたりの基準価額は1.23円です。
一口一円で始まった投信は10,000円単位の基準価額で表示するのが通例なので、1万口あたりの基準価額は12,300円になります。
 

1万口あたりの基準価額

私が一番とっつきにくいと感じるのはこの考え方です。
日本では追加型の公募投信は、多くの場合、1口1円で募集を開始し、以降はその時時の基準価額で設定・解約がなされます
したがって、投信の時価単価としての基準価額は、運用資産のパフォーマンスに応じて、1口あたり1.2345円とか0.8765円になります。
ただ、運用会社も販売会社も、これを1万口単位の基準価額で表記します。
上の例だと1万口あたり12,345円とか8,765円という具合です。
一方、実際に投資家が持っている投信の口数として、証券会社のマイページや報告書で確認できる口数は1口単位です。
例を出します。
私は、ノーロード(販売手数料なし)のABCファンドを、基準価額12,000円/1万口400,000口購入しました。
この場合、ファンドの購入にかかるお金は
12,000✕400,000=4,800,000,000(48億円)
ではなく
(12,000÷10,000)✕400,000=480,000(48万円)
です。
ABCファンドのパフォーマンスが悪く、基準価額が11,000円/1万口まで下落したとします。
この時私が保有しているABCファンドの時価は
(11,000÷10,000)✕400,000=440,000(44万円)
です。
 
余談ですが、適格機関投資家私募のファンドだと、1口あたりの基準価額が1万数千円(1口1万円スタート)のものもあります。
また、外国籍のファンドだと1口の価格が1ドル程度のものもあれば100ドル程度のものもありますが、1万口あたりに換算したNAVを提示するような書き方は見たことがありません。
 

時価の算出の時点

基準価額は1日に1つです。
そのため「一日に一つしか数字が出ないんならそれはいつの時点の価格なのさ?」という疑問が出てきます。
これは、基本的に計算日の終値ベースと考えて良いですが、厳密にはファンドが投資対象とする資産によってバラバラです。
 

・国内の株式や債券

東証に上場している株式や、日本国内で発行されている債券は、当日の終値ベースで評価されています。
日本株だととてもシンプルで、15時に取引所の取引が終了して終値が出て、その価格をもとにファンドの資産を時価評価します。
債券は相対取引なので市場の終値はありませんが、日証協の売買参考統計値などをもとに時価評価されます。
 

・外国の株式や債券

外国の株式や債券の場合は、計算日の前営業日の市場価格をもとに時価評価されています。
例えば、2月9日のABC外国株ファンドの基準価額は、2月8日の米国や欧州の終値をもとに計算されています。
2月9日の日本時間の夕方に基準価額を出さなければいけないとすると、その時点では欧州や米国では当日の取引が終わっていない(米国では始まってもいない)ので、8日の終値で評価します。
さらに、2月9日の日本時間の夕方には9日の終値が出ているアジア市場(香港、シンガポール、韓国など)の銘柄も8日の終値で評価します(不思議!)。
 

・円換算する時の為替レート

外貨建ての資産を円換算する時に使う為替レートは、計算日当日の三菱東京UFJ銀行のTTM(対顧客為替相場の仲値)が使われます。
10時に公表されます(為替実務やFXをやってる方には有名ですね)。
従って、10時から夕方までに為替レートが大きく動いた時は、実感ほど基準価額が動いていないように見えることもあります。
 

・外国籍ファンド

鬼門です。
国内籍の投資信託から、海外に設立されたファンド(外国籍投信)に投資するファンドが結構あります。
これは、運用会社や運用方針が異なる複数のファンドに分散投資するファンド・オブ・ファンズのような商品が代表的ですが、運用実績のある既存のファンドを活用したり、課税の観点から選択されることもあります。
これも基本的に、外国の株や債券と同じように、計算日の前営業日の外国籍投信のNAVをもとに時価評価します。
悩ましいのは、為替の時点です。
外国投信のNAVが円建てで算出される場合は、外国籍投信の管理会社(アドミニストレーター)がNAVを計算する時点の為替レートを使います。
当然これは、日本の10時に出るTTMとは乖離します。
 

まとめ

・基準価額は、計算日におけるファンド(投信)の純資産総額をファンドの総口数で割ったもの
・ほとんどの追加型の公募投信は、1口1円スタートだが、基準価額は1万口あたりで表示している。
単純に1万口あたりの基準価額と自分の保有口数をかけ算すると、桁が4つ大きくなってします。
・時価評価の時点は原則は計算日当日の終値。
ただし、外国の株や債券に投資する場合は計算日の前営業日の時価と当日の為替レート(TTM)で評価する。外国籍投信を保有する場合はもっと複雑。
 
以上になります。
みんなで基準価額マニアになりましょう!
 

(補論)法律的な位置づけの唐突感

さらにマニアックな点ですが、基準価額の法律上の定義について少し触れます。
基準価額の法律上の定義は以下のとおりです。
 
投資信託及び投資法人に関する法律施行規則 別表第一 記載要領等
受益証券の基準価額は、計算日現在における当該信託勘定元帳の資産総額から負債総額を控除した額に、次の評価損益を加減した金額を同日の残存受益権口数をもって除して得た金額とする。
(1) 国内有価証券評価損益及び国内先物取引等評価損益
(2) 国内不動産評価損益
(3) その他資産評価損益
(4) 外国投資勘定評価損益及び為替評価損益
 
基準価額は、投資家が自分が持っているファンドの運用状況を把握するために必要なほか、投資信託を購入・解約する時の価格にもなる重要な数字です。
その割に、定義が投信法の施行規則のしかも別表に唐突に出てきます。
そして、他の法令や投信協会の規則には結構な頻度で出てきます。
基準価額の法律上の定義をググってもなかなかたどり着けません。
投信の実務や法務に関する本を探しても、厚い本を読まないと適当に流してあります。
(商事法務から出ているファイナンス法大全・上巻[全訂盤](西村あさひ法律事務所)という本にはちゃんと記載がありました。高い(税抜き9,000円)だけあります。)
 

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