取引・配当・コーポレートアクション

株主総会が延期になったら配当金はどうなるか?(投資家のための基準日の話)

2020年3月25日

本稿では、3月決算の会社の定時株主総会が6月中(決算から3ヶ月以内)に実施されなかった場合の期末配当金の取り扱いについて解説します。

会社法の基準日の規定と定款等の実務的な運用、2011年の東日本大震災の時のことにも言及します。

投資家目線で書いていますので、株式会社の実務については弁護士の執筆した記事等も合わせてご参照ください。

株主総会が延期になった場合の取り扱い

法務省と東証の通知

新型コロナウイルスへの感染拡大への影響を考慮し、法務省が以下の通知を出しました。

論旨は3点。

1. 新型コロナウイルス感染症のため、3月決算の会社が決算後3ヶ月以内に株主総会を実施できないときは、実施可能になってから速やかに開催すればいい。(会社法第296条第1項の運用)

2. 3月末の株主が権利を行使できる期間は3ヶ月以内なので、決算後3ヶ月以内に定時株主総会を開催できなかったときは、改めて議決権行使の基準日を定める必要がある。(会社法第124条第2項の運用)

3. 3月末を配当金の基準日として定款で定めている場合でも、新型コロナウイルス感染症のため3月末を基準日とした剰余金の配当が出来ない場合は、異なる日を配当金の基準日として配当することが出来る。

東証も3月24日にこの内容、特に会社が期末配当金の基準日を変更した場合は、3月末の株主は配当金を受け取れないことについて注意喚起しています。

2020年のカレンダーだと何事もなければ、3月末の配当金は権利付き最終売買日が3月27日権利落ち日が3月30日になるため、それを見越しての通知でしょう。

2011年東日本大震災時の対応

「株主総会の延期と配当金」に注目が集まるのは9年前の東日本大震災のとき以来です。

法務省の通知

http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/saigai0012.html

経済産業省のガイドライン

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/guideline.pdf

当時話題になったのは覚えていましたが、結局どうなったかはフォローしきれていなかったため改めて調べたところ、この時は上場企業では2社が株主総会を延期したようです。

投資家は現時点では予想に基づいて行動するしかない

現時点では、6月中に株主総会を開催できるか明確にアナウンスしている会社はありません。そのため、3月末の配当を考慮に入れて売買する場合は、投資家は各人の予想に基づいて行動するしかありません。

東日本大震災の時は、実際に総会の延期が必要になった上場会社はごく一部でしたが、今後感染のオーバーシュートがあれば、状況が大きく変わる可能性もあります。
(特に、先週末から街の人通りが増えており、自分は多少危うさを感じています。)

会社法の「基準日」の規定と運用

日本の会社法に基づいて株式会社が行うコーポレートアクションの「基準日」については、過去に以下の記事を書いています。
※コーポレートアクションとは、株式会社が行う、株主に権利を付与したり(配当、ライツ等)、株主の権利の内容を変更する(株式分割、合併等)行為全般のことです。

【T+2対応版】株のコーポレートアクションの日程(基準日、落ち日、権利付き最終売買日)

2019年11月追記 2019年の7月からT+2決済に移行したため、一部記載内容を改めました。   本稿ではコーポレートアクションの日程に関 ...

続きを見る

本件の理解に必要な範囲で制度と運用の概要を述べると以下のようになります。

1. 会社は「一定の日」を定めて、その日の株主を「権利を行使することができる者」と定めることができる。この「一定の日」が基準日。いつ時点の株主がどのような権利を行使できるかは、都度決定して公告するか、定款で定める。基準日から権利行使までは3ヶ月以内。
(会社法第124条第1項、第2項、第3項)
⇛法務省の通知では、この基準日から権利行使までは3ヶ月以内は守る必要があるため、6月末までに総会を実施できない時は3月末の基準日を使うのではなく、別途基準日を設定するよう求めています。
2. 定時株主総会の基準日と、期末配当・中間配当の基準日は、会社の定款で定めるのが一般的。一(東証ホームページの「東証上場会社情報サービス」で定款を確認することができる。)
⇛法務省の通知では、定款で3月末を株主総会と期末配当金の基準日定めている場合でも、新型コロナウイルスの影響により困難な場合は定款で定めた基準日に実施しなくても許容されるという見解を示しています。

厳密に言えば、総会の基準日と利益配当の基準日は別々に定められているため、剰余金の配当を取締役会の決議事項としている会社は「株主総会は延期するが剰余金の配当は3月末の基準日に行う」という選択肢もあり得ます。直感的に分かりにくい取り扱いにはなります。

おわり

以上、株主総会の延期と配当金についてでした。
投資家目線ではニッチなトピックですが参考になれば嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

SNSとブログランキング

↓のアイコンからTwitterのシェアやブログランキングのクリックをしていただけると大変励みになります!



株式ランキング

投資信託ランキング

-取引・配当・コーポレートアクション
-,