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ZOZOで学ぶ、TOB(公開買付)規制と投資家の対応

2019年11月20日

本稿では、日本の株式公開買付(TOB)に関するルールについて解説し、自分の保有株がTOBの対象になった時は投資家はどのように対処すべきかを解説します。

動画にしていますので、よろしければ併せてご覧ください。動画は発表の翌週に収録したものなので、結末までは触れていません。

YahooによるZOZOのTOB

2019年9月12日にYahooがZOZOを連結子会社にするためにTOBを実施することを決定しました。

買付の条件は以下の通りです。

・買付期間は当初10月上旬開始を予定
 ⇛その後、買付期間を10月30日から11月13日に決定
・買付価格は2,620円(公表前日の終値が2,166円)
・取得株数の下限は発行済株式数の33.4%(3分の1超)
・取得株数の上限は発行済株式数の50.1%(過半数)
・ZOZO創業者の前澤氏は持分36.76%のうち30.37%を応募予定

TOBは計画通り11月13日に完了し、同日ZOZOはYahooの子会社になりました。
実際には1.5億株の買付上限に対して、2.4億株の応募があったため、上限を超えた分については買付から漏れました。

出所:9月12日付および11月13日付両社適時開示をもとに記載

TOBとの定義

TOBはTake-Over Bidの頭文字をとったものです。日本語では株式公開買付と言われます。

法律上の定義は以下のとおりです。

金融商品取引法第27条の2第6項
「公開買付け」とは、不特定かつ多数の者に対し、公告により株券等の買付け等の申込み又は売付け等の申込みの勧誘を行い、取引所金融商品市場外で株券等の買付け等を行うこと

条文は少し回りくどいですが、端的に言うと「あらかじめ条件を定めて、不特定多数の投資家から、市場外で株式を買い集めること」です。買付期間、買付数量、価格を買付者が事前に公表することで、投資家間の平等を保証しようとしています。

手続きや規制の詳細は国によって異なりますが、日本のTOB手続きは金融商品取引法で定められています。
例えば、本件のように、
「買付の下限を決めて応募株数が加減に満たない場合は1株も買わない」
「買付の上限を定めて上限を上回った分は買わない」
という取り扱いが可能です。

TOBが強制されるシチュエーション(TOB規制)

また、金商法では、上場株式をある状況で買い集める場合には、必ずTOBで行うよう定められています。TOB規制と言われます。

代表的なケースに以下のものがあります。

・市場外で5%以上の株を買い集める場合
(今回は子会社化のために50%超を取得したいのこれにあたる)
・相対取引や立会外取引で3分の1超を取得する場合
(極端な話、大株主一人から33.4%の株を買う場合も公開買付にしないといけない)
・競合する買付者がいる場合
(TOB合戦。敵対的買収にホワイトナイトが現れる等。)

この他にもありますが、市場外(規制によっては取引所の立会外取引も含む)で、まとまった量の株を取得する場合が代表的なケースです。
逆に、市場取引のみで取得し、適切に大量保有報告書を提出するのであればそれはそれで問題ない取引です。ただ、情報開示やインサイダー取引防止の観点から、M&Aでそのような方法を取るのは現実的では無いでしょう。

TOBへの投資家の対応

TOBは、通常プレミアムのついた買付価格が設定されることが多いため、基本的には投資家にとってハッピーです。
公開買付の開始を待たずに、公表後に市場での取引価格もTOB価格近くまで上がることが多いです。

保有銘柄がTOBの対象になったときの投資家の対応は大きく分けて3つです

A,市場で売却する
TOBの完了まではそれなりに時間がかかるので、優先度の高い投資対象がある場合は市場でさっさと売却してそちらに資金を振り向けるという判断がありえます。

B,TOBに応募する
買付の条件によっては不成立になったり漏れたりする可能性がありますが、市場価格よりも買付価格の方が基本的に有利です。

C,そのまま保有する
今回のZOZOのようにTOB成立後も子会社として上場し続ける場合は、市場売却もTOB応募もせずに、保有を継続するという判断もありえます。

また、事務的ですが、TOBに応募する場合は、公開買付代理人(本件はみずほ証券)に口座を開設して、そこに自分の保有株を移管することが求められます。
公開買付代理人にこれまでに口座開設をしていなかった場合は、新規に口座開設をしてから、自分が現在保有している証券会社に公開買付代理人への振替の手続きを取る必要があります。
この対応が面倒で、市場売却を選んでいる投資家も実は多いのではないかと推測しています。

市場価格とTOB価格の乖離

TOBの条件しだいでは、市場価格がTOB価格まで上がらないことがあります。
Yahooが開示した買付価格2,620円に対して、公開買付公表直後の週末である9月13日のZOZO株式の終値は2,446円円でした。
公表前からは13%上昇していますが、買付価格によりは7%安い(ディスカウント)です。

この分は、TOB成立の不確実性に対するディスカウントだと考えられます。
まず、そもそも公開買付が実施されるかに不確実性があります。
例えば、シェアの高い会社同士の合併だと、M&Aに独占禁止法に基づく審査が必要です。この時に、グローバルにビジネスをしている企業は各国で審査が必要になるため、審査が長引いたり、審査がおりないこともあります。
また、公開買付が実施された場合でも、応募株数が下限に満たず不成立になったり、上限を超える応募があったため一部しか買われない可能性があります。
特に、TOB価格が低く株主の支持が得られず不成立になった場合は、買付者はTOB価格を引き上げるかTOBを諦めるかの判断を迫られます。価格が引き上げられる場合はそれまでに市場売却した株主はその分を儲け損なうことになります。逆に、買付者がTOBを諦める場合はTOB応募や継続保有(またはスクイーズアウトによる金銭交付)を考えていた投資家はぬか喜びに終わります。

本件では、買付期間の終盤にZOZOの市場価格は2,585円(▲1.3%ディスカウント)まで上昇しましたが、TOB成立後は2,300円台まで下落しました。

ちなみに、ヘッジファンドの中には、この市場価格とTOB価格(や株式交換の比率)の乖離に着目し、それが収斂する方向にポジションを取る戦略もあります。M&Aアービトラージ、リスクアービトラージと言われる戦略です。

おわり

以上です、参考になれば嬉しいです。

ZOZO株を持っていた方はおめでとうございます。

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