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伊藤忠のファミマTOBに見るインデックス運用の時代

2020年7月9日

2020年7月8日、伊藤忠商事は子会社のファミリーマート株式のTOBを公表しました。
TOB成立後に少数株主をスクイーズアウトし伊藤忠の100%子会社とし、最終的にファミリーマート株式の4.9%をJAグループ(JA全農と農林中金)に譲渡する事業再編計画の一環として実施します。

これに関して、伊藤忠の適時開示に目を通したところ、
「TOBの下限株数の決定には、ファミリーマート株式のパッシブファンドによる保有が30%見込まれることを考慮した」
という旨の記載があります。

インデックス運用の普及と日銀のETF買入という稀な金融政策を実施している現代日本の金融市場の姿を写す興味深い内容だと感じました。
本稿では、TOBでパッシブファンドの保有分をどのような観点で考慮したのかという点と、なぜパッシブ運用者はTOBに応募しないのかを解説します。

2019年のヤフーによるZOZO株のTOBの時に、日本の金商法に基づくTOB規制と投資家の対応について記事にしていますので、よろしければ合わせてご覧ください。

ファミリーマートの株主は50.1%伊藤忠で30%がインデックスファンド??

伊藤忠の66ページにのぼる本件の適時開示の5ページ目に以下の記載が出てきます。

②買付予定数の下限を50,114,060株と設定している理由
公開買付者は、(中略)、本公開買付けが成立した場合に伊藤忠商事及び公開買付者の所有割合が60%以上となるように、買付予定数の下限を設定することといたしました。
公開買付者は、(中略)、対象者株式を所有するETF(上場投資信託)やその他のパッシブ・インデックス運用ファンドの中には公開買付けの条件の適否にかかわらず、原則として公開買付けへの応募を行わない方針の者が存在しているものと考えております
(中略)
公開買付者としては、取引条件の適否にかかわらず、原則として公開買付けへの応募を行わないおそれのある投資家が対象者株式の約30%程度を所有しているおそれがあると分析しております。
(後略)

出所:伊藤忠商事株式会社 7月8日付適時開示(略と太字強調は執筆者による)

全容が分かるようにポイントを箇条書きにします。

  • 伊藤忠は現在ファミリーマート株式の50.1%を保有。
  • 本件TOBの下限株数は、成立時に伊藤忠の保有割合が60%になるように設定。
  • 本来であれば、総会の特別決議(スクイーズアウトのための株式併合に必要)を単独で満たせる3分の2超(66.66%超)を成立要件にしたい。
  • ただし、TOBへの応募が見込めないETFを含めたパッシブファンドがファミリーマート株式の30%程度を保有している模様。
  • TOB応募が見込めるのが、伊藤忠(50%)とパッシブ(30%)を除いた20%だけの状況で3分の2超を下限にすると、20%中の16.66%を集める必要があり、条件達成が困難。
  • そのため、TOB応募が見込める20%の半数にあたる10%の応募(賛同)が得られた時にTOBが成立するよう下限を設けた。

実は、このスキームは、以下のことを暗黙に前提にしています。
「パッシブファンドの運用者は、TOBには応募しないが、TOBが成立すればその後の臨時株主総会では少数株主のスクイーズアウト(株式併合)に賛成票を投じるだろう。」
買付者の伊藤忠はTOB価格の2,300円は「適切な価格」という立場ですから。

10年前はパッシブファンドの議決権行使を真面目にやっている機関投資家は少なかったです。
ただ、日本版スチュワードシップ・コード等いろいろあり、昨今ではパッシブ運用でも議案を精査し議決権を行使することが求められています
議決権行使助言会社のISSとグラスルイスや、実質株主調査のアイ・アールジャパンのビジネスが2010年代に急拡大したのはこのためです。

パッシブファンドの運用者がTOBに応募しない理由

適時開示にあるように、パッシブファンドは基本的にTOBには応募しません
まだTOB銘柄が指数から除外されるタイミングではないからです。
ベンチマーク(指数)との連動が目的のパッシブファンドは、指数が銘柄を除外するすタイミングでファンドから銘柄を外します。このタイミングがずれるとトラッキングエラーの要因になります。

通常は、指数算出者は上場廃止が決定してからTOB銘柄を指数から除外します。
例えばTOPIXでは、本件のようなケースでは整理銘柄指定(≒上場廃止決定)の後に指数から除外されます。
7月8日のTOBの公表を受けてファミリーマート株は東証で監理銘柄(確認中)に指定されていますが、引き続きTOPIXの構成銘柄です。
TOBが成立し、臨時株主総会でスクイーズアウト(少数株主の保有株数が1株未満となるような株式併合)が決議されたタイミングで、上場廃止が決定(≒整理銘柄指定)し、それを受けてTOPIXから除外されます。

これがパッシブ運用者はTOBに応募しない理由です。

おわり

以上です。
このような検討は過去にもあったのかもしれませんが、自分は本件で初めて見ました。
改めて、現在はインデックス運用と日銀ETF保有の時代だと意識させられます。

ちなみに、ファミリーマートの有価証券報告書の「大株主の状況」で確認できる信託銀行やカストディアンの保有比率を合計すると25%程度でした。名簿の下の方まで見れば30%になりそうですが、アクティブとパッシブの切り分けをどうやったのか等、詳細が気になります。

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