株式投資

2009年のGMの破綻と2020年のボーイングとの類似点・相違点

2020年3月24日

2020年3月の株価下落と合わせて、米航空機製造大手ボーイング(BA)の経営危機に注目が集まっています。
世界的な株式市場の下落と米国を代表する大手メーカーの経営危機という構図は、2008年のリーマンショックと2009年にチャプター11を申請し破綻したGM(ゼネラル・モーターズ)と重なります。
※チャプター11:米連邦破産法第11条。日本の民事再生法に相当。廃業するのではなく事業継続しながら債務整理・経営再建する手続き。

本稿では、当時のGMの状況を振り返り、最後に現在のボーイングの状況と比較します。
自分はリーマンショックの時は株式の仕事をするようになって2年目でした。まだ12年は経っていませんが、随分遠くなったように感じます。

金融危機とゼネラル・モーターズ 星の一生

ゼネラル・モーターズの破綻は、恒星の一生になぞらえることができる。
核融合を繰り返し光と熱を放ち続けた星は、次第に膨張していく。核融合を停止し光を放たない白色矮星となり一生を終える星もあるが、重量の大きな星は自分の重力を支えきれず、超新星爆発により一生を終える。
米国経済を代表する巨星であったGMは爆発した。それは自身の巨大な質量ゆえであったが、外部環境の悪化の甚大さゆえでもあった。資本主義経済の巨星は、決してそれ単体で燃え続けることも、燃え尽きることもできない。

ゼネラル・モーターズ破綻の原因

GMの破綻の原因は証券アナリストだけでなく、ジャーナリストや経営学の研究者など、多くの専門家が言及している。ここでは4つの要因を挙げる。

大型車に傾斜した事業戦略がガソリン価格高騰で崩れた

GMが2000年代に注力していたのは小型トラックと大型SUVだ。小型トラックは米国の自動車市場を見たことがないとイメージしにくいカテゴリーだが、ピックアップトラックに代表される大型で高額な乗用トラックを指す。

これらの高額商品は高い利益率を誇ったが、原油価格とガソリン価格の上昇の影響を大きく受けた。2002年末に26ドルだったWTI原油価格は右肩上がりの上昇を続け、2007年末には100ドル近くまで上昇。2008年7月には140ドルまで上昇する。

従業員の医療保険や年金などのレガシーコストの膨張

GMは従業員に手厚く、退職者に手厚い年金と医療保険を提供していた。例えば、2005年には退職者向け医療費として56億ドルもの金額を計上していた。膨張したレガシーコストは結果としてGMを押し潰した。

社会から尊敬され、従業員に手厚く報いて来た企業が、その負担に押しつぶされるのは悲劇だろうか?残念ながら、企業が傾くほど報いられている従業員は労働者の中の特権階級であり、同情よりも因果応報と評されるのではないだろうか。

GMACという金融事業の存在

2008年の金融危機の中で、GMは決して外部環境の変化の煽りを受けた被害者ではなかった。GM自身が、信用の膨張を作り出していたマシーンの1つであった。

GMは当時GMAC(General Motors Acceptance Corporation)という金融子会社を持っていた。自動車会社にはつきものの販売金融子会社だが、融資した自動車ローン債権は証券化し投資家に転売されることになるため、GMAC自身が当時の信用膨張のエンジンの1つであった。
また、GMACはResCapという不動産部門を持っており、住宅を始めとする不動産への融資を行い、その融資を証券化することで利益を上げていた。なぜ自動車会社が不動産融資を行っていたのかというもっともな疑問があるが、当時の米国はそういう時代だったのである。今では、どの企業もAIを活用したソリューションを掲げるが、当時はそれが住宅ローンだったのだ。

すでに赤字・債務超過だったGMに金融危機がとどめを刺した

金融危機とGMをセットで考える時に誤解してはいけないのは、信用懸念が台頭する2007年より前からGMは赤字に転落していたということだ。

自動車事業の不振とレガシーコストの膨張により、GMは2005年度から営業赤字だった。
例えば、2008年に執筆者がGMの指標を確認した時は、営業赤字、債務超過、営業キャッシュフローマイナス、(当然ながら)無配という状況であり、なぜこの状況で上場が継続できているのか分からない状況だった(ちなみに、東証の上場廃止基準では2期連続債務超過で上場廃止である。)。
GMがチャプター11を申請したのは2009年なので、営業赤字に陥ってから4年余耐えたことになる。

GMへの政府支援と再建策

GMに対して米国政府が直接行った支援は、資金繰りが悪化した2008年12月以降の3回のつなぎ融資と、チャプター11申請時の債務整理のための融資である。つなぎ融資の合計額は200億ドル程度、チャプター11申請時の融資は300億ドル程度だった。

GMの再建では、優良資産を新会社に譲渡し、不良資産を残した旧会社を清算するという方法が取られた。企業再建で「Good CompanyとBad Companyに分ける」と言われる方法だ。
また、旧GMの主要な債権者はデット・エクイティ・スワップにより、債権の放棄の代わりに新会社の株式を与えられた。この債権者には、退職者向け医療プラン、社債権者、米国政府が含まれる。最終的には政府が新GMの大株主になり、GMは国有化された。GMがチャプター11を申請したのが2009年5月末、新会社への資産譲渡が承認されたのが2009年7月である。
この過程で、旧GMの株式は上場廃止になり、株主責任が問われた。現在取引されている新GMの株は、2010年11月に再上場したものである。

ボーイングはどうなるか?

ボーイングの現況は当時のGMに実際によく似ている。
ボーイングの2019年12月期の決算は、営業赤字、債務超過、営業キャッシュフローマイナスである。ボーイングが政府に支援を求めた金額は600億ドルと報道されているが、これはGMへの政府融資の総額の1.2倍に相当し、規模感も似ている。
また、事業戦略上の問題(ボーイングは737MAXの運行停止、GMはレガシーコストと小型トラックの不振)から始まった苦境が、外部環境の急変により加速度的に悪化している点も共通している。

ただ、ボーイングが抱えている病巣はGMほどではないように見える。
GMが破綻まで4年に渡って営業赤字であったのに対し、ボーイングが営業赤字・営業キャッシュフローマイナスになったのは2019年からである。
市場関係者も737MAXの運行停止が解除されれば資金繰り懸念は解消されると見ており、株価は大幅に下落したもののまだ100ドル前後で推移している。

懸念があるとすれば、着地点の見えなさである。
GMはチャプター11で、病巣であったレガシーコストと不採算事業を圧縮し、事業再建を目指した。ボーイングは、737MAXの運行再開は時間の問題であるとしても、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な人の移動の停滞がどの程度長引くかが未知数だ。航空会社の設備投資が長期間停滞することになれば、ボーイングの危機はいつまでも終わらない可能性がある。

 

 

 

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