2019年にMSCIやFTSEラッセルのようなグローバルな指数算出会社が、中国A株の組入比率を拡大しました。本稿では、このトピックと、前提知識になる「中国株」の種類と、グローバルな株価指数の中で中国株がどういう取り扱いをされていたのかについて解説します。
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動画にもしていますので、ぜひ一緒にご覧ください。
2019年MSCIが中国A株の組入比率を拡大
MSCIコクサイやMSCIエマージングで日本人にも有名な指数算出会社のMSCIは、2019年2月に、中国A株の指数への組入比率を拡大することを公表しました。
5月、8月、11月に段階的に引き上げる計画で、本稿執筆時点では、11月27日に引き上げの最終ステップが予定されています
これにより、2018年以前は0.8%程度だったMSCIエマージング(新興国株価指数)のA株比率は3.3%程度までまで上昇します。
FTSEラッセルのような他の指数算出会社も2019年から中国A株を組入ており、これらの変更に伴うインデックスファンドから中国A株への資金流入は2019年全体では数百億ドル規模になるとの試算もあります。
ここまでが算出会社の公表資料や各種の報道で言われている事項です。
ただ、これだけを読むと
そもそも中国A株とは何か?
これまではA株がほとんど含まれていなかったのなら、以前からMSCIエマージングの20~30%を占めていた「中国株」は何なのか?
という疑問が出てくると思います。
次節以降では、それらの疑問に回答していきます。
5種類の「中国株」
中国株はざっくり分けると5種類の上場形態があります。
中国A株
まず、今回話題になっている中国A株です。A株は、中国本土の上海証券取引所、深セン証券取引所に人民元建てで上場している株式です。伝統的に、中国人投資家と、認可を得た適格外国機関投資家(QFII, Qualified Foreign Institurional Investor)しか買えませんでした。
※「中国本土」という表現は多少違和感もあるのですが、海外のメディアやMSCIのようなベンダーも”mainland China”という表現を使っています。
日興アセットマネジメントが運用する東証上場のETFで1322パンダという銘柄がありますが、これはまさに日興AMがQFIIの認可に基づいて始めた中国A株のETFです。
中国H株
中国H株(香港H株ともいう)は、香港証券取引所に上場している中国本土の企業の株式です。
テンセントのように香港だけに上場している会社もあれば、中国工商銀行のように本土と重複上場している銘柄も多くあります。香港株が買える外国人投資家なら基本的に自由に取引できます。(個人投資家の場合は、他の外国株と同様に証券会社がリテール向けに取り扱っている必要があります。)
レッドチップ
香港証券取引所に上場している、中国本土資本で設立され事業も本土で行っているが、香港で登記されている会社の株をレッドチップと呼びます。H株と似ていますが登記が中国にあるか香港にあるかで区別しています。中国の最大手通信会社のチャイナモバイルはレッドチップの代表的な銘柄です。
米国上場のADR
中国のAmazonにあたるALIBABA(BABA US)や中国のGoogleにあたるBAIDU(BIDU US)は、中国にも香港にも上場せず、米国にのみ上場しています。
ちなみに、アリババは長らくニューヨーク証券取引所のみに上場していましたが、2019年11月26日に香港にも重複上場予定です。
中国B株
中国本土の上海証券取引所、深セン証券取引所に米ドルまたは香港ドル建てで上場している株式が中国B株です。本土の取引所に上場していますが外国人投資家も取引できます。
B株市場は、外国人投資家への市場開放のために設置された伝統ある市場ですが、銘柄数が少なく存在感は薄いです。
以上のように一口に「中国株」と言っても5種類もの上場形態があります。
そして、この中でA株のみが、基本的に外国人投資家に対して門戸を閉ざして来ました。
MSCI指数の中国A株組入までの道のり
それでは、これらの中国株の、グローバルな株価指数における位置づけはどのように変化してきたのでしょうか?
MSCIやFTSEなどのグローバルな指数算出会社は、外国人投資家が買えないA株は指数に組み入れていませんでした。
MSCIエマージングやACWIのような、「新興国株価指数」「全世界株価指数」に入っている中国株は、外国人が買えるH株、レッドチップ、米国上場等だけでした。
この状況に2014年に変化が訪れます。香港証券取引所経由で、上海証券取引所・深セン証券取引所の上場銘柄を取引できるようになったのです。この仕組は「ストック・コネクト」と呼ばれています。
全銘柄が対象ではなく、1日あたりの数量の制限はあるものの、香港株を取引できる外国人投資家なら基本的にストック・コネクト経由でA株を取引できるようになったのです。
そして、その後のストックコネクトの普及・拡大を背景に、MSCIは2018年にA株をMSCIエマージングに追加しました。この時のウェイトが、冒頭で「引き上げ前のA株比率」として出てきた0.8%です。
組入比率20%の誤解されがちな点
少しディープですが、誤解されやすい点について最後に解説します。
MSCIの公表資料や一部の報道では、以下のように「inclusion factor(組入比率)」という言葉が使われています。
「第1段階として5月に組み入れ比率を5%から10%に引き上げ、(略)第2段階は8月に10%から15%に引き上げ、第3段階として11月に15%から20%に引き上げ」
これは、MSCIエマージングの中国A株比率が完了後に20%になるということではありません。
これは、時価総額加重平均の株価指数で一般的に行われる浮動株調整の話をしています。
すなわち、2019年の変更以前は、A株銘柄は時価総額の5%のみを指数を算出するときの時価総額(浮動株調整後時価総額)としていたのを、段階的に20%まで引き上げるということです。新興国株指数の中のA株ウェイトは変更前0.8%の4倍程度になるだけです。公表時からの時価の変動や組入銘柄の変更を加味してもエマージング全体の3~4%と見ておけば大きく乖離しないと思います。
浮動株調整についてはこちらでディープに解説しています。併せてご覧ください。
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おわり
以上です。
実は2008年のリーマン・ショック以前は、中国A株はとても熱いプロダクトでした。
そのため、当時はこういった中国株の種類や、重複上場銘柄のA株のH株に対するプレミアムがよく話題になっていました。
最近は話題の中心になることが少ないので、金融危機後にエマージング株を買い始めた方の参考になれば嬉しいです。