本稿では、世界のメジャーな株価指数はREITを含むが、日本で算出されている日経平均やTOPIXにはなぜかJ-REITが含まれていないという問題を掘り下げます。
目次(クリックで各項目にジャンプ)
S&P500もMSCI ACWIもREITを含む
世界的には株価指数の構成銘柄にはREITを含めます。
S&P500の構成銘柄でGICSの11業種で「不動産セクター」に分類される会社の多くがREIT(US-REIT)です。
例えば、
S&P500不動産セクターの時価総額上位5社
AMT(American Tower)
PLD(Prologis)
CCI(Crown Castle International)
EQIX(Equinix)
DLR(Digital Reality Trust)
これらは全てREITです。
S&P500だけでなくMSCIもFTSEラッセルも、株式の代表的な指数にはREITを含めています。
MSCI Japanには日本ビルファンド投資法人を筆頭にJ-REITがいくつも採用されています。
(ただし、時価総額ウェイトは三菱地所や三井不動産の方が高いです。生まれ変わったら財閥系デベロッパーになりたい。)
TOPIXや日経平均はなぜかREITを含まない
一方、日本で算出されている代表的な株価指数にはJ-REITは含まれません。
TOPIXにも日経平均にもJ-REITは含まれず、TOPIXと東証REIT指数の構成銘柄はまったく重ならないのです。
このため、日本株しか見ていなかった人がS&P500やMSCIWorldの構成銘柄を初めて見ると「なんでREITが株の指数に入ってるの?」という疑問を持ちます。
反対に外株から見始めた人は「TOPIXってJ-REIT入ってないの?なんで?」と驚きます。
個人研究の範疇にはなりますが、このREITの取り扱いの差異について思うことを書きます。
一応自分はJ-REITもUS-REITも仕事で割と見ていました。
J-REITは名実ともに投資法人(ファンド)なのだ
現在東証に上場しているJ-REITは全て投信法上の投資法人(会社型投信)です。
J-REITにおける投資法人は権利義務の帰属先としての「箱」であり、REITの資産運用会社(物件の選定・取得)、プロパティマネージャー(物件の管理)、信託銀行(保有資産の管理や計算の受託)等が投資法人の実質的な運営を担います。
投資法人そのものはファンドの箱なので具体的な業務は上記のように専門機関に「委託」するスキームです。
J-REITは、関連する法律(投信法&金商法&税法 etc.)で「投資信託」として取り扱いが規定され、上場制度や実務もこれに則って整備されたので、
不動産「投資信託」です・会社ではありません
投資法人の「投資口」です・株式ではありません
という認識になり、指数でも株とは別物として扱われているというのが自分の理解です。
ここに「価格形成や資産としての性質が上場株式と異なるのか?」という視点はあまり入っていない印象です。
US-REITはファンドっぽくない
本家米国のREITは、J-REITのような箱ではなく、通常の株式会社に近いです。
例えば、American Tower(AMT)のアニュアルレポートを読んでも、同社の関係者として運用会社も信託銀行も出てきません。普通の会社とあまり変わりません。
「保有物件のリース(賃貸)と管理を行う不動産会社が、
内国歳入法(IRC,米国の所得税法)に基づき、
利益の大部分を毎期の配当に回す等の要件を満たすことで、
法人の段階では非課税になっている」
というのが自分のUS-REITの理解です。
ちゃんとアメリカの法律を確認したわけではありませんが、米国の専門家が書いたREITの解説書やREITの法定開示(10-K等)を見ていても、1940年投資会社法のようなファンド規制との繋がりに言及されることがなく、もっぱら税法上のスキームとして書かれています。
過去に不動産投資で高名な運用会社の方に教えてもらったことですが、世界的に見ると日本のように「いかにも投資信託」というスキームのREITは稀だそうです。
おわり 青(J-REIT)は藍(US-REIT)よりも青し(Investment Trust)?
「青は藍より出でて藍より青し」という言葉があります。
J-REITは世界的には後発で整備された形態で、米国を始めとした諸外国の“Real Estate Investment Trust”を参考に考案されたと思うのですが、実態はなぜかそれらのどれよりもファンド然とした箱と委託のスキームになっています。
指数の組入を掘り下げて行くと、日米のREITの形態の違いに行き着くのです。
別の機会に書きたいのですが、公募投信で「REIT≠株」目線で作られたものが多いのもここから始まっていると見ています。