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証券会社の手数料無料化はなぜ可能か(信託報酬、メイカーテイカールール、外株の為替手数料)

本稿では、証券会社の手数料無料化はなぜ可能かについて解説します。
「無料化しないサービスで回収するから」よりもっと踏み込みます。

「手数料無料化」はどのプロダクトで起こっているか

大手ネット証券で「手数料無料化」をうたう会社が増えています。
具体的には、以下の3つのような施策です。

  • 特定の条件(NISA等)で、国内現物株式・ETFの取引手数料無料化
  • 投資信託の販売手数料(購入時手数料)の無料化
  • 一部の米国株・ETFの取引手数料無料化

例えば、楽天証券では、

  • 国内株▶NISA・ジュニアNISA口座の売買手数料無料、国内ETF(執筆時101銘柄)の売買手数料無料等
  • 投資信託▶すべての取扱投信の購入時手数料無料
  • 米国株▶一部の米国ETF(執筆時9銘柄)の取引手数料無料

といった施策を導入しています。SBI証券、カブコム証券、マネックス証券も同じようなことをしています。
手数料無料化の対象になっているプロダクトはいずれもベーシックなものなので、新規顧客へのアピールとして強力なだけでなく、既存顧客への手数料の値下げとしても喜ばれます。

これらは基本的に、他に手数料を取るプロダクトがあるから可能な施策です。
無料化しない現物株の売買手数料や、グループ内の他社のプロダクト(グループ内の運用会社の投信・ETF)の手数料として回収することを想定してるのです。
「証券会社 手数料無料化」で最初に出てくる以下の記事でも挙げられています。

ただ、実際には「取引手数料無料のサービス単体だと証券会社はタダ働きをしている」わけではありません。
以下では、投信、米国株、国内株の順に解説します。

投信:信託報酬はどこに行く?

投資信託の販売手数料(購入時手数料、買付手数料)を無料化できるのは、信託報酬の4割くらいが販売会社(証券会社)の収入になるためです。信託報酬というのは、ファンドの運用・管理のため、ファンドの残高に対して日々差し引かれている費用のことです。

これは、投信の目論見書を読んでいる人には当たり前のことですが、個別株やETFがメインだと投資経験があっても知らない人が割といます。
おそらく「信託報酬」という名前のせいで、「信託報酬」=「信託銀行に支払う報酬」だと勘違いしがちなのだと思います。私も株式数比例配分方式と同じくらいわかりにくい名前だと思います。

公募投信の信託報酬の内訳は、ざっくりと、
運用会社5~6割、販売会社(証券会社、銀行等)4割、信託銀行0.03~0.05%
程度です。
投資信託の手数料についてはnoteに詳しく書いていますの、ぜひ併せてご覧ください。

購入時はノーロード(手数料なし)でも、投資家が投信を継続保有していれば、販売会社はファンドの信託報酬から収入を得ることができます
私見ですが、販売手数料より信託報酬から収入を得るモデルの方が、販売会社による乗り換え推奨のインセンティブがないため健全だと考えています。
(もちろん、販売手数料はあるが信託報酬が低めというファンドの方が長期で見た投資家のコスト負担は少なくてすむため、一概にどちらが良いとは言えません。ただ、販売手数料が高いファンドは信託報酬も高い傾向にあります。)

米国株:為替の手数料は高い

大手ネット証券は一部の米国上場ETFの手数料を無料化しています。
楽天証券とSBI証券では、S&P500に連動するメジャーな銘柄と、スマートベータのような少し尖ったものを対象にしています。

この場合も、証券会社は取引手数料は取りませんが、その前段で円をドルに換える際の為替手数料を取っています。また、将来、米国上場ETFを売却しドルを円に戻す(回金する)時も為替手数料がかかります。
大手ネット証券だとドル円は片道25銭の為替手数料(スプレッド)を取ることが多いです。
ドル円が110円の時は25銭は0.23%(23ベーシス)です。これは、国内株の取引手数料の4~5倍程度の料率に相当します。

このため、無料対象になっているSPYやVOOを購入しても、証券会社は為替取引でそれなりに収益が出ます。
(人件費やシステムの減価償却を配賦して赤字にならないかは分かりません。)

余談になりますが、自分は10年以上前から米国上場ETFを見ていますが、自身の資産運用は公募投信が中心でした。その理由がこの為替手数料です。
個人が円をドルに換える時は片道0.25%費用がかかりますが、投信の中で為替取引をするレートはこれよりもずっと有利です。

国内株:証券会社が取引所から手数料をもらえるようになる?(メイカーテイカーモデル)

国内株は上の2つとは異なり、現状では取引手数料を無料にしても単体で儲かるようにはなっていません。投信の信託報酬や米国株の為替取引のスプレッドのような取引手数料以外の収入が無いためです。
NISAの取引やETFのような限定された範囲でしか無料化していないのはこのためでしょう。

ただ、今後はこれも変わっていく可能性は高いと考えています。キーになるのは証券会社が取引所やPTS(私設取引システム)に支払う手数料です。

ベーシス(場口銭)とメイカーテイカーモデル

伝統的に、証券取引所が証券会社から取る手数料は、売買代金に一定割合をかけて計算します。
東証の規則では「取引料」という名称が使われています。いわゆる「場口銭(ばこうせん)」と言われるもので、年配者やトレーダーの中には今でもこう呼ぶ人がいます。
現行の規則では、東証全体の売買代金と個別の証券会社の取引金額で変動するものの、
概ね売買代金の0.0023~0.0030%(0.23~0.30ベーシスポイント)です。

これに対して、海外では多くの取引所がメイカーテイカーモデル(ルール)という料金体系を採用しています。
メイカーテイカーモデルというのは
「取引所は、市場に流動性を供給する注文(メイカー)にはリベートを払い、市場の流動性を享受する注文(テイカー)には手数料を取る
という料金体系です。
ある銘柄で、最良(最高)の買い注文が200円、最良(最安)の売り注文が230円の時は売買が成立しません。そこに220円の買い注文を出してもまだ約定はせず、220円の買い注文が板に残ります。この場合220円の買い注文はメイカーです。
この後に、最良の買い注文である220円を狙って、成行の売り注文や220円の指値売り注文を出して約定すると、場に出ている流動性を刈り取ることになるためテイカーになります。
メイカーテイカーモデルは流動性を供給するメイカーにインセンティブを与えますが、逆に、取引を約定させる注文であるテイカーにリベートを与える料金体系もあります。この場合は順番を逆にしてテイカーメイカーモデルと呼ばれます。

日本のPTSとメイカーテイカー(テイカーメイカー)モデル

日本でもPTSはメイカーテイカーモデル(またはテイカーメイカーモデル)を採用しています。
ただ、公表情報から確認できる限りでは、一方の手数料を無料にするまでであり、リベートを支払うところまでは行っていません。
(Chi-Xの手数料。ジャパンネクストPTSは公表情報見当たらず。)

日本は諸々の規制の影響で取引所のシェアが高く、PTSが今ひとつ流行らない市場でした。
ただ、昨年から、PTSにおける信用取引の解禁や、SBI証券や楽天証券が現物株の注文を東証だけでなくPTSにも同時に回送する仕組み(SOR(Smart Order Routing))を導入したことで、追い風が吹いています。

これらを合わせて考えると、今後のPTSの料金体系の変化とシェアの拡大によっては、現物株の手数料無料化を後押しする可能性があると考えています。
(メイカーテイカーモデルはHFTの市場間裁定取引(先回り)を拡大するため、手放しで歓迎して良いかはわかりませんが、ここでは踏み込みません。興味がある方はマイケル・ルイスの「フラッシュ・ボーイズ」がおすすめです。)

ちなみに、メイカーテイカーモデルは証券取引所だけでなく仮想通貨取引所の料金体系でも採用されています。日本語で「メイカーテイカーモデル」と検索すると、仮想通貨に関する記述も多くヒットします。

おわり

以上です。
「証券会社単体ではなく総合的な金融サービスとしてペイする」という分かったような分からないような説明では満足できなかった方の参考になれば嬉しいです。

ちなみにYoutubeで「無料という言葉には特別な価値がある」という話をしています。ぜひ併せてご覧ください。

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