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よく分かる公募増資(フロー、用語、株価への影響):JR西日本のケース

本稿では、上場会社の公募増資を2021年のJR西日本の事例を題材に解説します。

発行条件の決め方(ブックビルディング方式)や発行数量を調整する仕組み(オーバーアロットメント)はIPOでも上場後のPO(公募増資)でも基本的に同じです。
(そのため、スケジュールや用語の説明はIPOのフローを調べる中で当ページにたどり着いた方にも参考になるはずです)
違う点は、上場後の公募増資では、すでに株式が市場で取引されていることと、公募増資の概要が適時開示として発信されることです。
特に、公募増資の適時開示はそれほど複雑ではないことが難解な言葉で書かれているので、本稿が理解の一助になれば嬉しく思います。

はじめに:実はレアな公募増資

上場会社が不特定多数の投資家に新株を発行して資金調達を行う公募増資は、代表的なエクイティファイナンスです。
上場時に行う最初の公募増資を意味する"Initial Public Offering(IPO)"は、新規上場そのものを指す言葉として使われます。
ただし、すでに上場している会社が公募増資を行うことは多くありません
年間の公募増資の件数は新規公開(IPO)時のものを除くと20-60件程度です。

東証上場会社は3,700社程度なので、1年間に公募増資を行う会社は全上場会社の2%を下回ります。
「何十年も取引所に上場しているが公募増資はIPOの時だけ」という会社は少なくありません。

JR西日本の公募増資の概要

では、実際にJR西日本(西日本旅客鉄道株式会社)の2021年9月1日付けの適時開示をもとに、公募増資のフローを見ていきましょう。

適時開示の3-6ページに今回の公募増資の条件が書かれていますが、エッセンスは以下のとおりです。色がついている語句は追って解説します。

○取得勧誘(≒販売)する株式数

公募による新株発行・・・48,545,400株
 (うち国内27,478,600株、海外18,319,000株、海外オーバーアロットメント上限2,747,800株)
オーバーアロットメントによる売出・・・上限4,121,700株(公募の8%、グリーンシューオプションあり)

○発行価格・・・ブックビルディング方式で9月13日から15日までの間に決定(発行価格等決定日)
※オーバーアロットメントによる売出の株数も同日に決定

○申込期間・・・発行価格等決定日の翌営業日から翌々営業日まで

○払込期日・・・発行価格等決定日の4営業日後

○幹事証券会社

・国内:野村證券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SMBC日興証券
・海外:Morgan Stanley & Co. International plc、Nomura International plc、SMBC Nikko Capital Markets Limited
※共同主幹事という体裁を取るが並び順筆頭の証券会社が仕切る。本件では国内は野村、海外はモルスタ。

シンジケートカバー取引期間・・・申込期間終了日から9月24日まで

グリーンシューオプションの申込日・・・9月28日

スケジュールを並べると以下のとおりです。

①最初の開示(取締役会決議)から2週間かけて受給調査を行い発行価格等の条件を決定
②投資家・幹事証券から会社への申込・払込を以て新株発行が成立
③幹事証券がオーバーアロットメント分の調達を行う

という3段階に分けると見通しやすいと思います。

公募増資の用語解説

ここからは、公募増資の理解のために必要な用語を解説します(前項で黄色くした箇所)。
エクイティファイナンス用語は、会社法の言葉、金商法の言葉、実務用語が入り混じっていて率直に言って分かりにくいです。
なるべく持って回った言い方にならないよう解説します。

公募

「公募」とは、不特定多数の投資家に対して証券の取得勧誘(≒販売)を行うことです。
おそらく英語のPublic Offeringの日本語訳として広まった言葉だと思います。
反対に、特定の投資家に対して証券の取得勧誘を行うことを「私募」と言います。
(例えば50人未満の投資家に対してのみ取得勧誘を行う場合は「少人数私募」となります。)
公募増資は、個人投資家も機関投資家も含めて多数の投資家新株の取得勧誘を行うので「公募」「増資(新株発行)」なのです。

実は公募という言葉は現在の会社法や金商法で明確に定義されている言葉ではありません。
金商法では「募集」という言葉が使われ、会社法の条文にも公募という言葉はありません。
ただ、解釈論としては確立しており、学者も法律家も「新株発行には、公募、第三者割当、株主割当の三つの方法がある」という解説をしますので、実務家以外はあまり神経質になる必要はありません。

売出(うりだし)

「売出」とは、すでに発行されている証券(株式や債券)の取得勧誘を行うことです。
会社の自己株式大株主が保有している株式を一般投資家に対して売り出すのが典型例です。
新規発行株式を多数の投資家に販売するのが公募増資ですが、すでに発行されている株式を多数の投資家に販売する場合は「公募売出」ということになります。
例えば、JT株式の1/3は財務大臣(政府)が保有していますが、過去には政府保有のJT株式の公募売出が何度か行われています。

公募増資では、国内のオーバーアロットメント(後述)で投資家に販売する分は自己株式等の既発行の株式を幹事証券に貸し付けるので「オーバーアロットメントによる売出」という言葉が使われます。

ブックビルディング

ブックビルディングとは、機関投資家へのヒアリングや投資家への受給調査を通して発行価格を決定することです。
IPOの条件決定でも使われる方法なのでそちらで聞いたことがある人も多いと思います。
大口機関投資家へのヒアリング等を通して仮条件(〇〇円~XX円といったレンジ)を決定し、その仮条件を元に更に受給調査を行い最終的な発行価格を決定するのが基本的なフローです。
個人顧客のIPO・PO抽選もこの期間に受け付け、受給の判断材料として見られます。
日本では、ブックビルディングの方法は日証協の「有価証券の引受等に関する規則」とその細則で定められているため、適時開示では「日本証券業協会の定める有価証券の引受け等に関する規則第25条に規定される方式」と書かれます。これ、単にブックビルディングのことです。

オーバーアロットメント、グリーンシューオプション、シンジケートカバー取引

オーバーアロットメントとは、新株の需要が多く見込まれる場合に、新規発行株数を超過して販売することです。
オーバーアロットメントとして販売する株式は、上限を決めて大株主や会社の自己株式から幹事証券に貸しておき、最終的には幹事証券が第三者割当増資として会社から新株を引き受ける市場で同社株式を買い付けて調達します
前者の、幹事証券がオーバーアロットメントで販売した株式を返却するために会社から第三者割当で新株を引き受ける権利グリーンシューオプションと言います。
(グリーンシューカンパニーという会社が最初に使ったスキームのためこの分かりにくい名前で呼ばれます。)
後者の、幹事証券がオーバーアロットメントで販売した株式を返却するために市場で当該株式を買い付けることをシンジケートカバー取引と言います。

要は投資家の受給に応じて発行する株数を調整するためにオーバーアロットメントという追加販売分を予め設けておき、オーバーアロットメントで販売した株数の帳尻の合わせ方としてグリーンシューオプション(追加で発行する)とシンジケートカバー取引(市場で調達する)があるということです。

幹事証券がグリーンシューオプションで新株を引き受ける価格は公募増資と同条件です。
公募増資の発行価格は足元の市場価格よりディスカウントされるため、通常はグリーンシューオプションが行使されることが多いです。
この場合は、結局オーバーアロットメント分も新規発行株式が販売されたことになります。

公募増資と株価

公募増資が発表されると、通常は希薄化懸念から株価は下落します。
発行株式数の増加による株主利益の希薄化は単純明快な算数なので、どれほど魅力的なストーリーで公募しても抗い難いです。

特に本件の最大発行株数は、
公募48,545,400+OAのグリーンシューオプション上限4,121,700=52,667,100株
であり、これは同社の発行済株式総数191,334,500株の27%に相当する大規模な公募増資です。
公表後の株価5,000円で計算すると、時価総額9,550億円の会社が、最大2,600億円分の新株を発行する計算です。

公表以降の株価は以下の通りで、公表直前と比べ▲14%下落しています。

9月1日終値 6,011円
9月2日終値 5,208円(1日終値比▲13%)
9月3日終値 5,154円(1日終値比▲14%)
※本件は9月1日の引け後に公表

もちろん27%の希薄化に対して▲14%の下落に留まっているので、本件は旅客鉄道事業が困難な状況下で必要な資金調達であり財務の安定に資するという評価も入っていると推察します。

おわり

以上です。
公募増資の適時開示は分かりにくいし、用語をググっても長々としたもの(Wikipedia)か簡潔すぎるもの(証券会社の用語集)しかなくて分かりにくいなぁという問題意識から執筆しました。

とはいえ本稿もイマイチまとまりがないのでいずれ加筆するかもしれません。

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