株式投資

ネット証券で買った米国株はどこにあるのか(ネット証券の現地取次先と現地保管機関)

本稿では、日本の個人がネット証券で買った米国株はどのように管理されているかを解説する。ネット証券大手の現地取次先と現地保管機関について調べたのがきっかけ。

外国株の取引サービスには現地委託先と現地保管機関が必要

日本の証券会社が米国株取引サービスを提供するために必要なもの

日本の証券会社が顧客に対して米国の上場株式・ETFの取引サービスを提供するために必要なものは多岐に渡る。

・顧客の注文をニューヨーク証券取引所(NYSE)やNasdaq等の米国の取引所で執行する米国の証券会社(→現地取次先)

・顧客が購入した米国株を米国内において管理する金融機関(→現地保管機関)

・米国株の情報(価格、板、コーポレートアクション等)を顧客に提供するための情報プロバイダ(情報ベンダーや取引所)

・上記をオンラインで連動させ顧客に取引サービスとして提供するためのシステム

etc...

本稿では、この中でも特に重要な現地取次先現地保管機関について取り上げる。
現地取次先と現地保管機関は機能的には不可分ではないが、リテール証券では取引執行と資産管理は基本的に一体なので、同じ米国の証券会社に委託することになる。

米国の取引所に発注できるのは米国の証券会社(現地取次先)

NYSEやNasdaqのような米国の証券取引所に注文を出すには、米国で証券業を行う資格を持った証券会社を介する必要がある。この、日本の顧客が日本の証券会社に出した米国株の注文を米国で執行する米国の証券会社が現地取次先である。
(日証協の規則では「現地取次証券会社」と規定されている)

日本でもそうだが、規制産業である証券業のライセンスは取得・維持管理ともにかなりコストがかかる。業務運営に伴う直接的な費用はもちろん、SEC(証券取引等監視委員会(≒日本の金融庁+証取委に相当))やFINRA(金融業規制機構(≒日本の日証協+取引所自主規制法人に相当)に登録し諸法令や自主規制ルールを遵守するという規制対応の負担も大きい。

それゆえ、日本の証券会社では大手(野村、大和、銀行系3社)は米国に現地法人を持っているが、ネット証券で米国に証券子会社があるのはマネックスだけである(詳細後述)。それ以外の会社では、サービスとして現地での取引執行を行う現地取次先が必要になる。

FINRAに登録している米国拠点がある日本の証券会社の例
(モーサテの米国株の中継に出てる人の所属先多し)

野村證券→NOMURA SECURITIES INTERNATIONAL, INC.
大和証券→DAIWA CAPITAL MARKETS AMERICA INC.(大和証券CMアメリカ)
SMBC日興証券→SMBC NIKKO SECURITIES AMERICA, INC.
みずほ証券→MIZUHO SECURITIES USA LLC(米国みずほ証券)

参考 FINRA Broker Check

米国の上場株式の管理方法(現地保管機関)

米国では、上場株式はDepository Trust Company(DTC)という集中保管機関(CSD)で管理されている。日本における証券保管振替機構に相当する機関である。
DTCのグループ会社にはNational Securities Clearing Corporation(NSCC)という日本証券クリアリング機構に相当する機関もある。

米国の主要な証券会社や銀行(含カストディアン)等はDTCに口座を持ち、自己や顧客の取引をDTCにおける口座振替で決済している。
DTCに口座を持てるのは基本的に米国の金融機関だけなので、上場米国株を保有する者は、米国人であれ外国人であれ、法人であれ個人であれ、最終的にはDTCに口座を持つ米国の金融機関を介することになる。

ネット証券経由で米国株を買った例にあてはめると、日本人が日本の証券会社経由で取得した米国株を、DTC口座で管理する米国の金融機関が現地保管機関である。言葉だけだと分かりにくいので図で示すと以下のような階層構造になっている。

例えば、上図の日本のネット証券でNVIDIA株を顧客Aは10株、Bは5株、Cは135株・・・というように保有しており、全顧客で2,000株保有していたとする。この場合は、現地保管機関はあくまで「直接の顧客のネット証券の保有分が2,000株ある」という管理をし、実質保有者である顧客A、B、C等がそれぞれ何株持っているかには関知しない。いわゆるオムニバス口座である。

これはそのまま、表題の「ネット証券で買った米国株はどこにあるのか」の直接的な回答になる。

ネット証券で買った米国株はどこにあるか

ネット証券で買った米国株は、日本の証券会社が管理を委託する現地保管機関(米国の金融機関)のDTC口座の残高として存在している。

現地保管機関は直接の顧客であるネット証券の名義で残高を管理する。ネット証券の個々の顧客が何株保有しているかを管理しているのはネット証券のみである。

 

ネット証券の現地取次先と現地保管機関はどこか

日本のネット証券大手5社について現地取次先と現地保管機関を調べたところ、マネックス証券のみが自社グループのTradeStation Securitiesで、それ以外は全てInteractiveBrokersだった。5社とも現地取次先=現地保管機関である。

日本の大手ネット証券の現地取次先と現地保管機関

SBI証券→Interactive Brokers

楽天証券→Interactive Brokers

マネックス証券→TradeStation Securities

松井証券→Interactive Brokers

auカブコム証券→Interactive Brokers

※各社の取引ルール等で確認。楽天証券のみ明示が無かったが2022年2月のシステム障害に関する情報開示の中に「現地取次先であるインタラクティブ・ブローカーズ証券」という記載があることから判定。

インタラクティブブローカーズについて

Interactive Brokers LLCは株式や先物の電子取引サービスを提供する米国の証券会社で、多くの国の証券市場をカバーしている。日本の個人も口座開設が可能なので、古くから外国株に目を向けていた人の中には利用を検討したことがある人も少なくないと思う。

本件のようなローカルのネット証券向けのサービスが事業全体に占める割合は明示されていないが、アニュアルレポートでは法人顧客の例としてヘッジファンドやプロップファームと並んでintroducing brokers(顧客注文を同社に取り次ぐ証券会社)が挙げられているので、相応の規模なのだと思う。

TradeStationについて

TradeStationはマネックスが2011年に子会社化した米国のオンライン証券会社である。2023年3月期のセグメント別営業収益(≒売上高)では日本を上回っている(利益ベースでは赤字)。

マネックスは米国株の時間外取引(プレマーケット/アフターマーケット)にネット証券で唯一対応しているが、これは現地取次先が自社グループのTradeStationであるからこそ可能なのだと推測する。
(逆にインタラクティブブローカーズのブローカー向けサービスに変更があれば他の4社も一気に追随する可能性もある)

おわり

以上です。

ややニッチな話題ですが、詳しく理解したい人の助けになれば。

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