本稿では、ヤフーファイナンスや証券会社の銘柄情報より会社四季報の方が見やすい情報を解説します。
四季報の読み方については、東洋経済の公式な解説のほか、識者の読み方を取り上げた解説もありますが、「この情報は四季報で見ると便利!」という観点のものが見当たらなかったので記事にします。
現在は口座開設者向けのサービスとしてサイトやアプリで四季報情報を提供している証券会社も多いです。紙の四季報を通読するような日本株通の人以外にも大変有用なので、ぜひ活用してください。
記事では紙の四季報ベースで解説していますが、証券会社アプリ等でも項目名は同じです。
目次(クリックで各項目にジャンプ)
業績関連
まず、企業業績に関連する情報から見ていきます。銘柄分析で重要なところです
四季報だと見やすい①:セグメント情報(事業別の売上構成比・営業利益率)
四季報では、会社のセグメント別(事業別)の売上構成比と営業利益率が社名のすぐ横に出てきます。
以下は直近の四季報のオリンパス(7733)の例です。
出所:会社四季報2020年第3集夏号(東洋経済新報社)
ここでは
【連結事業】内視鏡53(26)、治療機器27(12)、科学13(9)、映像5(▲24)、他1(▲38)
【海外】84
と記載されています。
【連結事業】欄で、事業セグメント名に続く数字が会社全体の売上高に対するその事業の構成比、()の中がその事業の営業利益率です。また、【海外】は売上全体における海外売上高の比率です。
具体的に、内視鏡セグメントはオリンパスの連結売上高全体の53%を占めており、同事業の営業利益率は26%と読みます。また、先般投資ファンドへの売却が発表された映像セグメント(デジカメ等)については、売上高全体の5%を占めており営業利益率は▲24%(赤字)と読みます。
この記載方法、慣れるまでは2種類の比率が混在していて不自然だと感じましたが、使っているうちに各事業の規模と収益性を簡潔に表す優れた記載方法だと分かりました。
推移や詳細を確認するためには決算短信や有価証券報告書に当たる必要がありますが、上記の情報だけでも紙面やサイトですぐ見られるのは大変便利です。
自分はこれが四季報の最も偉大な点だと考えています。
四季報だと見やすい②:2期先の業績予想(四季報予想)
四季報では常に現在の期と次期の2期分の業績予想が掲載されています。
現在最新の2020年夏号では、3月決算の会社については2021年3月期と2022年3月期の業績予想が載っています。
実は、2期分の予想が一般に公開されているものはあまり多くありません。
日本株では、多くの会社が来期の業績予想(会社予想)を出します。
この会社予想は、通常は1期先(現在進行中の決算期)までです。
会社によっては中期経営計画等でもっと先の予想を出していますが、中経の数字はタイムリーには修正されません。
また、セルサイドアナリストのリサーチでは2期・3期先まで予想値を出す場合も多いですが、個人投資家は見られません。
そのため、四半期ごとに2期分の予想値が見直される四季報の業績予想はけっこう貴重なのです。
なお、四季報予想は東洋経済新報社の記者が会社への取材にもとづいて作成しているため、会社予想とあまり乖離しないと聞いたことがあります。
自分も
「セルサイドアナリスト>四季報予想≧会社予想」
の順で楽観的(会社予想が保守的)という感覚です。
四季報だと見やすい③:キャッシュフロー(+設備投資・減価償却)
キャッシュフローの数値がざっくり確認できるのも四季報の有用なポイントです。
四季報の中央左寄りに、会社の財務指標が一覧になっているところがあります。公式にも「財務」という呼称です。
ここに、会社のキャッシュフロー関連の数字が出ています。
直前期のキャッシュフロー計算書から、営業CF、投資CF、財務CF、(期末の)現金同等物の数値が掲載されています。()内はもう1つ前の期の数値なので、直近2期分が確認できます。
下は6301小松製作所の財務欄です。
出所:会社四季報2020年第3集夏号(東洋経済新報社)
これだけでも便利ですが、その直上の情報をあわせて見るともっと有用です。
四季報ではキャッシュフローの上に「設備投資」「減価償却」「研究開発」の数字が来るようなレイアウトになっています。
そのため
「純利益」(これも近くにあります)に「減価償却」を加算したものが「営業CF」に概ね等しくなっているか?
「投資CF」の大部分は「設備投資」なのだろうか?
こういった確認がササッと出来るのです。
ここで違和感や好奇心を覚えるなら、短信や有報でキャッシュフロー計算書を詳しく見たほうが良いです。
「財務」欄には他にも、自己資本比率、ROE、ROA等超重要指標が載っていますが、これらはヤフーファイナンス等にも載っています。
キャッシュフローの数値と設備投資・減価償却が近くに出ていることが四季報のとても気が利いているポイントです。
会社のプロファイル
ここからは、業績ではなく会社概要に関する項目です。
四季報だと見やすい④:取引銀行・幹事証券・監査法人・株主名簿管理人・仕入先/販売先
四季報の右下の部分には、取引銀行、幹事証券、監査法人、株主名簿管理人、(主要な)仕入先・販売先が書かれています。
投資判断に直接関係することは少ないですが、こういった情報が濃密に網羅されているソースは貴重です。特に、幹事証券と株主名簿管理人が入っているのがいかにも証券情報感があって素敵です。
(自分も「名」が株主名簿管理人とはなかなか分かりませんでした。)
下に挙げるのは7731ニコンのものです。
出所:会社四季報2020年第3集夏号(東洋経済新報社)
ニコンは社名に三菱と入っていない三菱系の会社として知られていますが、関係先を見るとしっかり三菱系なことが分かります。
四季報だと見やすい⑤:コーポレートアクションの履歴
四季報の左上に【資本移動】という項目があります。
ここには新株発行(増資)、株式分割、株式併合、といった発行済株式数の増減を伴うコーポレートアクションの実施日と概要が記載されます。
分割・併合の比率はもちろん、増資の概要(公募・私募の別と価格と株数)も記載されるため、近年の株数が変動するコーポレートアクションを振り返ることができます。
過去のコーポレートアクションの履歴を会社単位で確認するのは実はなかなか骨が折れます。
(高額なBloombergプロフェッショナルがあれば”CACS”で一発なのですが・・・。)
注意すべき点としては、新株発行を伴わない「公募売出し」のみの場合はここには出ません。
例えば、2019年にはリクルートやかんぽ生命の公募がありましたが、これは新株発行を伴わない既発行株式の売出しのみだったので、【資本移動】欄には出ません。
余談 売買単位とETFの情報
最後に、実用性とは別にトピックを2つご紹介します。
売買単位
四季報には当然、銘柄ごとの売買単位が載っています。
昔は便利でしたが、2018年に日本の上場会社の売買単位(≒単元株数)が100株単位に統一されたため、現在では確認する必要がなくなりました。
ETFの情報
四季報ではREITとETFの情報はおまけ程度です。
ただ、東証上場ETFの純資産総額(ファンドのサイズ)と直近の月間売買代金が一覧で載っており、これはファンドの継続性を見る上で有用な情報です。
経験則ですが、純資産総額10億円以下、月間売買代金2億円以下のETFは、償還や撤退の可能性を考慮すべきと考えています。
おわり
以上です。
最近個別株を始めた方や、四季報のどこがいいのかイマイチ良くわからないという方の参考になれば嬉しいです。
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