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WisdomTree天然ガスETF(1689)は1円未満になるのか

2023年4月5日

2023年3月末現在1.2円前後で取引されているWT天然ガスETF(1689)の市場価格が1円未満になることは有り得るのか調べました。
(1689の今の状況についてコメントくれた774さんどうもありがとう。)

結論を先にいうと、東証の業務規程と呼値に関する規則に目を通したところ、

現行の規則では1円が価格の下限になるはず

というところまでたどり着きました。保険をかけるような言い方になりますが、明確な答えが必要な場合は証券会社や東証に照会してください。

追記2 併合を発表。併合後は単価2,000円程度になる予定

2023年11月30日付けの適時開示で、現地(ロンドン)12月1日を基準日として1783:1の併合を行うことが公表されました。

基準日をまたいで保有しようと思っている人は以下の2点に注意。

売買停止期間

1689は預託証券形式でない重複上場銘柄なので、最近では珍しい売買停止期間が設けられています。11月29日が東証における最終取引日になり、12月6日から併合後の価格での取引が開始されます。

端数の処理代金の税務

本件は投資口の併合なので端数の処理代金が交付されますが、これは特定口座で保有していても源泉徴収されないので、譲渡損益の申告が必要な可能性があります。適時開示の4枚目に記載があるので関係する人は要確認。

詳細な記事はこちらから

追記1 注意喚起と上場継続の意思表明、基準価額1円割れ

2023年4月12日に、1689について「基準価額と市場価格の重要な乖離が生じる可能性について」という適時開示が出ました。
(教えてくれたりょっぺさんどうもありがとう。)

日経の適時開示速報のリンクを貼っておきます。

以下のような事が記載されています。

・今後1689の円換算NAVが1円未満になる可能性があるが、東証の市場価格の下限は1円であるため、市場価格とNAVの間に重大な乖離が発生する可能性がある

・特に円換算NAVが1円未満の状態では市場で売却しようにも約定が成立せずに売却困難となる重大なリスクがある

・「東京証券取引所における本 ETF 銘柄の売買は、引き続き通常通り行なわれる予定です。また、本 ETF 銘柄の上場廃止の予定もありません。」と明言

上2つは当ブログの検証及び考察の答え合わせですが、最後の項目には少し驚きました。当面は東証での上場を維持するという意思表明に見えます。

これを以って「業者と取引所としては必要な注意喚起をした」ということにしてNAVが1円未満になっても何もせずに上場させ続ける可能性も出て来ました。
本稿の最後の「今後のシナリオ?」は消さずに残しますが、書いた後に上記の開示が出ていることも頭に入れて読んでください。

また、2023年6月2日(現地6月1日)ベースで1689の円換算NAVがはじめて1円未満(0.996円)になりました。

以下の動画では、1689が2010年に東証に上場してからの軌跡を振り返っているので、ぜひ併せてご視聴ください。

WT天然ガスETFの現状とこれまで

東証に上場するWT天然ガスETF(1689)は価格が非常に低位で、2023年3月末時点で東証の市場価格と円換算した基準価額(NAV)がともに1.2円程度である。

出所:YahooFinance(2023年3月31日時点)

3年前に記事で取り上げたが、ありがたいことに結構多くの人に読んでもらえている。

この銘柄を理解するためのポイントは以下のとおり。

メイン市場との売買制度の差異

1689はロンドン証券取引所(LSE)がメイン市場なので東証の価格はLSEの価格に引きずられる(※)。
そして、LSEの呼値の単位は0.01セント(0.0001USD)なので、現在の価格水準(3月末0.0083USD)でも東証ほどは売買に支障がない。

※LSE・東証どちらの取引価格も最終的にはファンドのNAVに連動するが、その前提になるETFの設定・解約はLSE上場分からしか受けていないと思う。

先物を使ったコモディティETFの宿命

1689の連動対象は期近の天然ガス先物を期日到来ごとに乗り換え(ロールオーバー)た運用成果を指数化したもの。この種のファンドの宿命で、先物の期間構造がコンタンゴだとつなぎ足ほど価格が上がらず、長期的には価格が下落しやすい

1689が特別に悪いわけではなく、つなぎ足チャートと同じ投資成果を提供するコモディティETFは世界のどこにもない。最近では、ディスクレイマーが必要なのは商品ETFではなく、つなぎ足チャートの方ではないかとすら思っている。

特異な組成形態

1689は「英領ジャージー籍の投資法人が発行する投資法人債券」(金商法、投信法、東証規則では「投資法人債券に類する外国投資証券」という区分に該当)という日本の投信や米国のミューチュアルファンドとはかけ離れた組成形態である。価格がここまで下落しても併合が行われないのは根拠法等のハード面の理由があるのではないかと推測している(あくまで私の推測)。

ぶっ飛んだティック(呼値の単位)

2019年頃の1689は、市場価格が2円や3円であるにも関わらず、呼値の単位(=価格の刻み)が1円単位という大変グランジな商品だった。2021年11月に東証が「ETFやETNにはTOPIX100採用銘柄と同様の呼値の単位を適用する」という措置を導入したため今の0.1円刻みになりマシになったという経緯がある。

補足1

日本株に馴染みが無い人は「呼値」を「Bid/ASK(Offer)」、「呼値の単位」を「Tick」に置き換えると理解しやすいと思う。「呼値」という言葉を日本株の経験が無い人に言うと「ナニソレ」みたいな反応が返って来ることもしばしば。

1689の値幅制限は1円がフロア

2023年3月31日時点の1689の値幅制限は

「1円~31.2円

である。

東証の呼値の制限値幅に関する規則」では、1689のような基準値段が100円未満の銘柄では上下30円を制限値幅としている。下にあるような制限値幅の表を証券会社のホームページ等で見たことがある方も多いだろう。
※基準値段→通常は東証の前日終値かメイン市場の終値(重複上場)

東京証券取引所 呼値の制限値幅に関する規則 第2条

1689は30日の終値が1.2円だったので上限が31.2円なのはこの通りなのだが、下限が1円であることが引っかかる人もいるだろう。

呼値の単位が0.1円の下でゼロでない最小の数字は0.1円なので、制限値幅が「0.1円~31.2円」となっても良さそうなもの。1689の取引単位は100口なので、0.1円でも最小売買代金は10円となり決済も問題ないはずだ。

補足2 1円の上場廃止基準

以前の東証では、株式については「株価1円」が上場廃止基準として定められていた(旧有価証券上場規程第601条第1項第4号(b))。ただ、これはあくまで株式が対象で、ETFにはこのような上場廃止基準は無い

もっと言うと、この1円の上場廃止基準は2022年4月の有価証券上場規程の改正で株式についても適用されなくなった。市場再編に伴う上場廃止基準等の整理があったが、新しい上場廃止基準・上場維持基準には当該規定は引き継がれなかったのである。

東証の規則における呼値・価格の制限

ここからは、東証の規則における取引価格・呼値の制限を確認する。

条文等の参照元

JPX定款等諸規則/諸規則内規

呼値に関する規則 第4条の2

東証の業務規程の下位規則にあたる「呼値に関する規則」には、以下のように定められている。

東京証券取引所 呼値に関する規則

(株券の呼値の制限)
第4条の2
 取引参加者は、株券について1円未満の値段による呼値を行ってはならない

こう書かれていると、逆にETF(「投資法人債券に類する外国投資証券」)である1689では1円未満の値段による呼値が許容されそうに見える。
だが、前段で確認した通り、現時点では1円未満の値段による呼値は値幅制限でできないようになっている。

実はここで言う「株券」にはETFも含まれるのではないか?ということで、大本の規則である東証の業務規程まで遡ることにする。
(呼値に関する規則には「株券」の定義が書かれていない。)

東証の業務規程 「株券」とはなにか

業務規程というのは、金商法が金融商品取引所に作成を求めている業務運営の基本ルールである。変更する時は内閣総理大臣の認可が必要なとても重たい規則。

同規程の第1条の2には「有価証券」の定義があるが、「株券」の範囲については第2条にあった。

東京証券取引所 業務規程

(売買立会の区分及び売買立会時)
第2条
 当取引所の売買立会は、午前立会及び午後立会に分かち、各売買立会時は、次の各号に掲げる有価証券の区分に従い、当該各号に定めるところによる。

(1) 株券(新株予約権証券、出資証券(法第2条第1項第6号に掲げる有価証券をいう。以下同じ。)、優先出資証券(協同組織金融機関の発行する優先出資証券をいう。以下同じ。)、投資信託受益証券(投資信託の受益証券をいう。以下同じ。)、外国投資信託受益証券(外国投資信託の受益証券をいう。以下同じ。)、投資証券、新投資口予約権証券、外国投資証券、外国株預託証券(外国法人の発行する株券に係る権利を表示する預託証券をいう。以下同じ。)、受益証券発行信託の受益証券(内国商品信託受益証券(特定の商品(商品先物取引法(昭和25年法律第239号)第2条第1項に規定する商品をいう。)の価格に連動することを目的として、主として当該特定の商品をその信託財産とする受益証券発行信託の受益証券をいう。以下同じ。)又は外国証券信託受益証券(受益証券発行信託の受益証券のうち、外国法人の発行する株券、ETN(内国法人が外国で発行する有価証券のうち法第2条第1項第5号に掲げる有価証券又は外国法人が外国で発行する有価証券のうち同項第5号に掲げる有価証券の性質を有するものであって、当該有価証券の償還価額が特定の指標(金融商品市場における相場その他の指標をいう。以下同じ。)に連動することを目的とするものをいう。以下同じ。)、外国投資信託受益証券、外国投資証券又は外国受益証券発行信託の受益証券(外国法人の発行する証券又は証書で受益証券発行信託の受益証券の性質を有するものをいう。以下同じ。)を信託財産とするものをいう。以下同じ。)に限る。以下同じ。)及び外国受益証券発行信託の受益証券を含む。第9条第1項、第66条(第14号を除く。)及び第67条を除き以下同じ。)(次号に掲げるものを除く。)

 午前立会は、午前9時から11時30分までとし、午後立会は、午後0時30分から3時までとする。

(後略)

皆さんご存知の東証の立会時間を定めている規定だが、今回重要なのはそこではなく、背景を水色にした株券に続く括弧書きである。

読点(、)と括弧の暴力とでも言いたくなるような書き方で脳が全力で読むことを拒絶するが、超訳すると

(一部の例外を除いて)以降の業務規程で「株券」という場合には、投資信託受益証券(普通のETF)や、外国投資信託受益証券(1557(SPYの東証重複上場)のようなETF)や、外国投資証券(1689など)も含みますよ

ということが書かれている。

当ブログとしてはこの業務規程第2条と呼値に関する規則第4条の2をもとに、1689の市場価格がについては、現行の規則では1円が価格の下限になるはずと結論づけたい。

おわり これからのシナリオ?

以上です。

上記の理解で正しいと思っていますが、もし当方に規則等の見落としがあったり、ホルダー向けには証券会社から注意喚起が出ているということがあればTwitterかコメント欄で教えていただけると助かります。

最後に、自分が現在の1689について今考えていることを書いて締めます。

市場価格の下限1円でNAVが1円未満になったらどうするのか?

1689について「1円で買えば絶対に損しない」という意見をたまに見るが、自分はその見方は楽観的すぎると思います。

1689はファンドなので、保有資産の市場価格をもとにNAV(基準価額)が日々算出されています。適時開示でも円換算したNAVが開示されています。
1円で1689を購入した後に円換算NAVが0.9円まで下落したとします。東証では1円未満の価格はつかないものの、それを1円で処分する(売る)ためには基準価額が0.9円のファンドを1円で買ってくれる奇特な買い手が表れる必要があります。

また、価格の下限が1円の市場にNAVが1円未満の商品を上場させ続けるのは、取引所と運用会社の判断としても問題があると考えます。ファンドのNAVから乖離した価格でしか約定できないわけですから。

個人的には、1689については以下のようなイベントを想定しておくべきだと考えます。

撤退・・・運用会社(WisdomTree)判断による撤退の可能性。撤退する時に1円でマーケットメイクしてくれればいいけど取り残されたらどうなるのだろう?

下限を0.1円にする規則改正・・・東証が価格の下限を0.1円まで下げるよう呼値に関する規則を改正する可能性。1689は100口単位なので0.1円でも最小売買代金10円にはなる。

併合・・・個人的にはこの銘柄に一番必要な措置だと思う。ただ、メイン市場の価格も相当に低いにも関わらず併合していないので、組成形態や他の上場市場の規則等のハード面の理由で難しいのではないかと想像している。英領ジャージーの会社法・投信法やLSEの規則に詳しい方がいたら教えてください。

おわり

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