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株主総会で株主に送付される書類のこれまでとこれから

2022年6月26日

2022年9月の改正会社法の施行で株主総会資料の電子提供制度が導入される。これを受けて、2022年6月に多くの上場会社の株主総会で同制度を採用するための定款変更が諮られる。

※この改正は2019年に成立し、本件以外の改正は2021年3月にすでに施行されている。実務への影響の大きさから1年半遅れての施行となっている。
電子提供制度の採用が強制の上場会社については、施行日を効力発生日として定款変更手続きをしたとみなされる強力な経過措置が設けられているが、みなし規定の対象にならない取り扱いもあるため、実際には多くの会社で株主総会の議題になっている。

出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ第17期定時株主総会招集通知

本稿では、上場会社の株主総会に際して株主に送付される書類の法的な位置づけについて確認し、これが2022年9月改正でどう変わるのかを整理する。

誤解している人が多いポイントは以下の2点。

・現在(改正前)の会社法でも招集通知等の電子提供は可能だが、個別の同意を得た場合の例外として認められており、極めて部分的にしか採用されていなかった。

・2022年9月改正で現行の送付書類の多くが原則電子提供になるが、送付物がなくなるわけではない。簡素化された招集通知と議決権行使書は郵送される

会社法の根拠までは興味が無く、来年どうなるかを手短に確認したい人は以下の三井住友信託銀行のページが簡潔にまとまっている。

※上場会社から株主への送付物として混同されることもあるが「配当金計算書」は租税特別措置法に基づく通知書である。以下で詳しく解説しているので興味がある方はこちらもぜひ。

現行の会社法では株主総会で何をどう送付するか

会社法で提供義務がある書類

2022年改正前の会社法で株主総会開催時に会社が株主に提供するものは以下のとおり。

これ以降、会社法等の条文を引用するが、必要に応じて太字強調、一部の省略、(※)による補記を行う。

招集通知

株主総会を招集するためには、開催日の2週間前までに開催日時等を記載した通知を送付する必要がある。これが招集通知である。

会社法 第299条
(株主総会の招集の通知)
株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(略)前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。
2 次に掲げる場合には、前項の通知は、書面でしなければならない
一 前条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合
二 株式会社が取締役会設置会社である場合
3 取締役は、前項の書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、株主の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することができる。この場合において、当該取締役は、同項の書面による通知を発したものとみなす。
4 (略)

株主総会参考書類と議決権行使書面

会社は株主総会の招集通知とともに、議決権行使の参考書類(株主総会参考書類)株主が議決権行使を行うための書面(議決権行使書面)を交付しなかればならない。

会社法第301条

(株主総会参考書類及び議決権行使書面の交付等)
取締役は、第二百九十八条第一項第三号に掲げる事項(※書面による議決権行使)を定めた場合には、第二百九十九条第一項の通知(※招集通知)に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、議決権の行使について参考となるべき事項を記載した書類(以下この款において「株主総会参考書類」という。)及び株主が議決権を行使するための書面(以下この款において「議決権行使書面」という。)を交付しなければならない。
2 取締役は、第二百九十九条第三項の承諾をした株主(※招集通知の電子提供に承諾した株主)に対し同項の電磁的方法による通知を発するときは、前項の規定による株主総会参考書類及び議決権行使書面の交付に代えて、これらの書類に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。ただし、株主の請求があったときは、これらの書類を当該株主に交付しなければならない。

条文中に「法務省令で定めるところにより」とあるとおり、これらの書面の記載事項は会社法施行規則で具体的に定められている
特に、株主総会参考書類については、同規則第73条から第94条にかけてかなり詳細な規定がある。例えば、総会資料には各取締役候補者の生年月日、略歴、保有株式数、兼務の状況等が記載されているが、これは同規則第74条で記載義務が定められている事項である。

なお、会社法では書面による議決権行使の採用は会社の任意である。
当然、上場会社は全社が書面による議決権行使を採用しているが、これは東証の有価証券上場規程で義務付けられているためである。

東京証券取引所 有価証券上場規程 第435条

(書面による議決権行使等)
上場内国会社は、株主総会を招集する場合には、会社法第298条第1項第3号に掲げる事項(※書面による議決権行使)を定めなければならない。ただし、株主(同項第2号に掲げる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の全部に対して法の規定に基づき株主総会の通知に際して委任状の用紙を交付することにより議決権の行使を第三者に代理させることを勧誘している場合は、この限りでない。

計算書類と事業報告

取締役会設置会社では、株主総会の招集に際して監査済みかつ取締役会承認済みの計算書類(≒決算書類)と事業報告を提供しなければならない。これに続く第438条で、定時株主総会における計算書類等の報告(または承認)を義務付けている事とリンクしている。

会社法第437条

(計算書類等の株主への提供)
取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、前条第三項の承認(※会計監査後に取締役会承認)を受けた計算書類及び事業報告(略)を提供しなければならない

もちろん、計算書類の作成方法は会社計算規則等で決まっており、事業報告の記載事項も会社法施行規則に規定がある。

具体的にどういうものが届いているか

以下では、上記の会社法上の提供義務を念頭に、具体的に株主に届いているものの一例を確認する。三菱UFJフィナンシャルグループの2022年3月期の株主総会の送付書類である。

出所:著者撮影

届いたのは「定時株主総会招集ご通知」「事業報告」「議決権行使書」の3点である。
(これ以外にもインターネット議決権行使の案内等も同梱されているがここでは割愛)

会社法で提供義務があるのは前述の「招集通知」「株主総会参考書類」「議決権行使書面」「計算書類」「事業報告」だが、これらは別々の冊子にする必要はない。三菱UFJFGの送付物では以下のとおり対応している。

「定時株主総会招集ご通知」・・・会社法上の「招集通知」「株主総会参考書類」

「事業報告」・・・会社法上の「計算書類」「事業報告」

「議決権行使書」・・・会社法上の「議決権行使書面」

会社によっては、議決権行使書面以外を全てまとめて一冊の冊子にまとめていることもある。

改正前会社法における電子提供の実態

さて、招集通知の会社法第299条第3項等にあるように、上記の株主総会関連書類は2022年9月改正前の会社法でも、株主から個別の承諾を得て電子交付できるようになっている

電子交付の根拠

招集通知・・・会社法第299条第3項
議決権行使書面と株主総会参考資料・・・会社法第301条第2項
事業報告と計算書類・・・会社法施行規則第133条第2項(事業報告)、会社計算規則第133条第2項(単体計算書類)、会社計算規則第134条第1項(連結計算書類)

だが、実態として採用している会社は極めて稀で、少なくとも筆者は見たことがない。

招集通知等の電子提供が採用されなかった理由

招集通知等の電子提供への同意の具体的な方法は会社法施行令で定められている。
具体的には、電子提供の方法を示して事前に同意を得る必要があり、相手方が「電子提供をやめる」と申し出たら書面交付に戻さなければならない

会社法施行令第2条

(電磁的方法による通知の承諾等)
次に掲げる規定により電磁的方法により通知を発しようとする者(次項において「通知発出者」という。)は、法務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該通知の相手方に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない
一 法第六十八条第三項(法第八十六条において準用する場合を含む。)
二 法第二百九十九条第三項(法第三百二十五条において準用する場合を含む。)
三 法第五百四十九条第二項(同条第四項(法第八百二十二条第三項において準用する場合を含む。)及び法第八百二十二条第三項において準用する場合を含む。)
四 法第七百二十条第二項
2 前項の規定による承諾を得た通知発出者は、同項の相手方から書面又は電磁的方法により電磁的方法による通知を受けない旨の申出があったときは、当該相手方に対し、当該通知を電磁的方法によって発してはならない。ただし、当該相手方が再び同項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。

シンプルな対応に見えるが、上場会社と株主の間には同意・承諾のやり取りをするポータルサイト等がなく、施行令に則って個別の同意を管理するコストは相応に高く付くと推測する。
また、上場株式は点々流通し、単年度で入れ替わる株主も少なくないため、採用しても十分に活用されない可能性もある(次の総会まで継続保有している確信があり、わざわざ電子提供の申し出を行う株主がどれほどいるか?ということ)。
さらに、業務妨害・嫌がらせ目的で電子提供の同意の申し入れと撤回を繰り返す者が現れる可能性もある。

部分的に採用されている電子提供

会社法が定める電子提供の中で、2022年9月改正より前でも部分的に活用されているものがある。
それは、事業報告の一部の内容については、招集通知の発出日から一定期間、会社のホームページ等で継続して公表していれば株主に送付しなくてもよいというものである。

会社法施行規則第133条第3項

3 事業報告に表示すべき事項(次に掲げるものを除く。)に係る情報を、定時株主総会に係る招集通知を発出する時から定時株主総会の日から三箇月が経過する日までの間、継続して電磁的方法により株主が提供を受けることができる状態に置く措置(略)をとる場合における前項の規定の適用については、当該事項につき同項各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める方法により株主に対して提供したものとみなす。ただし、この項の措置をとる旨の定款の定めがある場合に限る。
一 第百二十条第一項第四号、第五号、第七号及び第八号、第百二十一条第一号、第二号及び第三号の二から第六号の三まで、第百二十一条の二、第百二十五条第二号から第四号まで並びに第百二十六条第七号の二から第七号の四までに掲げる事項
二 事業報告に表示すべき事項(前号に掲げるものを除く。)につきこの項の措置をとることについて監査役、監査等委員会又は監査委員会が異議を述べている場合における当該事項

この項目は「法令及び定款に基づくインターネット開示事項」等と呼ばれる。例えば、三菱UFJフィナンシャルグループの第17回定時総会では以下の資料がHPに掲載されている。これらの内容は↑に載せた書面の事業報告には書かれていない

出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ ホームページ

 

以上が改正前の会社法における株主総会関連書類の位置づけと実態の整理である。

2022年9月改正会社法における電子提供制度

ここからは2022年改正で採用される電子提供制度について述べる。
ポイントは以下の点だ。

・会社法の第325条の2から第325条の7にかけて「電子提供措置」という全く新しい条文が追加される

・上場会社は電子提供制度の採用が強制である

・簡素化された招集通知と議決権行使書は2022年9月改正以降も郵送される

電子提供制度の範囲と概要

電子提供制度の導入にあたって、会社法には第325条の2から第325条の7にかけて「電子提供措置」という新しい款(かん)が設けられる。そのため、招集通知を規定する第299条等の総会手続に関連する既存の条文には変更がない。

電子提供制度の対象になるのは、株主総会参考書類、議決権行使書面、(連結)計算書類及び事業報告である。前節で確認した送付書類のうち、招集通知以外のものがすべて含まれる。

2022年9月改正会社法 第325条の2

株式会社は、取締役が株主総会(種類株主総会を含む。)の招集の手続を行うときは、次に掲げる資料(以下この款において「株主総会参考書類等」という。)の内容
である情報について、電子提供措置(電磁的方法により株主(種類株主総会を招集する場合にあっては、ある種類の株主に限る。)が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令で定めるものをいう。以下この款、第九百十一条第三項第十二号の二及び第九百七十六条第十九号において同じ。)をとる旨を定款で定めることができる。この場合において、その定款には、電子提供措置をとる旨を定めれば足りる。

株主総会参考書類
議決権行使書面
三 第四百三十七条の計算書類及び事業報告
四 第四百四十四条第六項の連結計算書類

これらの書類については、以下の方法に添って電子提供措置を行うことで、会社は株主に対する書面の交付に替えることができる。

・ホームページ等で電子提供に供する期間は、株主総会の3週間前または書面の招集通知を発送する時(最短2週間前)から株主総会の3ヶ月後まで(第325条の3)

・電子提供措置を採用する会社でも議決権行使書面を交付する(紙を郵送する)ことは想定されている(第325条の3第2項)

・株主は会社に対して電子提供対象の書面の提供を請求できる(第325条の5)

改正後の条文については以下に法務省が新旧対照表等を用意している。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00001.html

上場会社は電子提供制度の採用が必須

上場会社は、電子提供制度の採用が必須である。
具体的には、上場株式の振替決済を規定している「社債、株式等の振替に関する法律(振替法)」に、会社法改正と同じタイミングで、振替株式の発行者(≒上場会社)に電子提供制度の採用を義務付ける改正が行われる。

また、書面での提供を希望する株主は、直近上位の口座管理機関を経由して会社に書面交付請求を行えるよう整備されている。「直近上位の口座管理機関」は振替法の言葉で、個人投資家における証券会社、機関投資家における信託銀行のように、保護預かりや信託で顧客資産を管理している金融機関を指す。
端的に言うと、上場会社の株主は会社に直接ではなく、証券会社等を通じて書面交付請求ができるということ。

2022年9月改正 社債、株式等の振替に関する法律(振替法) 第159条の2
(会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第9条)

振替株式を発行する会社は、電子提供措置(会社法第三百二十五条の二に規定する電子提供措置をいう。)をとる旨を定款で定めなければならない

2 加入者は、次に掲げる振替株式の発行者に対する書面交付請求(会社法第三百二十五条の五第二項に規定する書面交付請求をいう。以下この項において同じ。)を、その直近上位機関を経由してすることができる。この場合においては、同法第百三十条第一項の規定にかかわらず、書面交付請求をする権利は、当該発行者に対抗することができる。

  一 当該加入者の口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式(当該加入者が第百五十一条第二項第一号の申出をしたものを除く。)

  二 当該加入者が他の加入者の口座における特別株主である場合には、当該口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該特別株主についてのもの

  三 当該加入者が他の加入者の口座の質権欄に株主として記載又は記録がされた者である場合には、当該質権欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該株主についてのもの

  四 当該加入者が第百五十五条第三項の申請をした振替株式の株主である場合には、買取口座に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該株主についてのもの

ワンポイント!

振替法は、会社法の特別法として振替株式(≒上場株式)の発行、譲渡、対抗要件等を規定している法律だ。券面が存在しない振替株式で期末に株主名簿を確定させる手続きや少数株主権を行使するための会社への対抗要件が整備されている。

※振替株式→保振機構で振替決済される株式。上場株式とほとんど同じ範囲。

実際には何が届くか?

以上が電子提供制度の概要だが、2022年9月以降の株主総会で具体的に株主のもとに届くことになると見られているのは以下の書類だ。

議決権行使書

・株主総会の概要と電子提供の方法(HPの該当ページのURL等)が書かれた簡単な通知書(狭義の招集通知)

例えば、証券代行事業者であり自身も信託銀行グループ単独で上場している三井住友信託銀行では、以下のような案内をしている。

出所:三井住友信託銀行

・議決権行使書について

上記のとおり、改正会社法では議決権行使書面は電子提供の対象だが、電子提供制度を取る会社が書面を交付することも想定されている。
現在の議決権行使の実態に鑑みて、インターネット行使がこちらを主とできるほど普及しているとは言い難いため、ほとんどの会社はこれまでと同様に議決権行使書とインターネット行使の案内が届くことになるだろう。ただ、議決権行使書の記載事項は改正前より簡素化される可能性がある。

・通知書面について

また、会社法第299条の招集通知は電子提供の対象外のため、総会の基本情報(日時、議案等)が書かれた狭義の招集通知は今後も郵送される。そのため、総会の基本情報と電子提供される資料へのアクセス方法を記載した簡素化された招集通知が株主に送付される見込みである。

※上記の三菱UFJフィナンシャルグループの例で見たように、これまでに「招集ご通知」等の名称で送付されていた冊子には議案や取締役候補者の説明等の会社法上は「株主総会参考書類」に相当する内容が記載されマッシヴになっていたことに留意。
株主総会参考書類は電子提供制度の対象なので、現在と比べると「招集通知」として送付される冊子の内容は大幅に簡素化されるはずである。

おわり

以上。条文の引用を含むものの狂気の全7,600字。

ソーシャルメディア上では、会社からの送付物は「紙の無駄」「経費削減しろ」「全部電子化しろ」と好き放題言われている。
投資家の関心の発露が前提知識のない文句ではなく、会社法制の変遷と実務について興味と理解を持ったうえでの建設的な批判になって欲しいと思いながら3日間かけて7,600字書きました。

 

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