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日本人は新NISAをどう活用しているのか?(平均47万円・日証協調査)

※画像がうまく表示されない場合は再読み込みしてください。リンク経由でたまに発生することを確認してます。

本稿では2025年2月に公表された日証協の新NISAの利用動向調査の概要と、筆者から見て興味深かった点をまとめます。

参照した報告書

日本証券業協会「新NISA開始1年後の利用動向に関する調査結果(速報版)」

https://www.jsda.or.jp/houdou/2025/20250212_nisa.pdf

※以下本稿では当該報告書を出所とする図表は出所を割愛します。

ファーストインプレッションをまとめた筆者のX投稿

調査の要約 「平均47万円」よりも踏み込んでみよう

どうやって調査したものか?

この調査は、2024年1月に実施されたアンケート(回答数7,610)に基づいている。アンケートの対象者は「2024年に新NISAで金融商品を購入した人」なのでNISAを利用していない人は回答者に含まれない

回答者の属性は平均年収454万円/平均保有金融資産1,446万円である。

NISA利用者のみが対象なので母集団の属性が高所得・高保有資産寄りになるのではないかと思ったが、対象を絞らない国税庁や金融広報中央委員会(知るぽると)の統計に近しい数値になっている。

参考:

国税庁の「民間給与実態統計調査」(2023年)では平均給与は460万円

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/gaiyou/2023.htm

金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」(2023年)では、家計の金融商品保有額は単身世帯1,492万円・2人以上世帯1,758万円

https://www.jili.or.jp/lifeplan/houseeconomy/858.html
※原典より見やすい生命保険文化センターのサイトにリンク

調査結果の概要

報告書のアブストラクトでは以下の事項が挙げられている。(筆者注)として感想や補足を付しつつ紹介する。

・枠ごとの利用者数と平均購入金額

つみたて投資枠の利用者は全体7,610人中6,008人(78.9%)で、平均購入金額は47.3万円。成長投資枠の利用者は5,408人(71.1%)で、平均購入金額は103.3万円

(筆者注)「平均47万円」はYahooニュース(配信元は共同通信)のヘッドラインに使われ、Xでトレンドに入っていた。

・利用者の年収分布

「年収300万円未満」の割合が39.7%と最も高く、「300万円~500万円未満」が27.7%

(筆者注)前節に記載した回答者の属性のこと。協会の「金持ち優遇ではなく広く活用されている」と言いたい気持ちがビンビン伝わってくる

・購入・売却状況

つみたて投資枠では1銘柄のみ購入が最多(32.5%)、平均購入銘柄数は2.5銘柄。年内に売却しなかった人は83.2%
成長投資枠では1銘柄のみ購入が最多(31.9%)、平均購入銘柄数は3.1銘柄。
売却しなかった人が75.3%

(筆者注)成長投資枠はともかく積立投資枠で17%も売却しているのは結構多いと思った。

・購入資金の出所

「預金・給与所得・年金」が74.9%と最多、旧NISAからのスイッチが12.8%、課税口座からのスイッチは11.2%。

(筆者注)新規資金が多いのは想像通り。特に2024年前半は円安原因に新NISAがよく挙げられていたことを思い出す。

購入銘柄の傾向

成長投資枠では「日本国内株式」が48.8%と最多。つみたて投資枠では「投資信託(インデックス型)全世界株式(日本を含む)」が36.8%と最多。

(筆者注)私の関心の中心なので後で詳しく見ます。

・損益状況

つみたて投資枠ではマイナスの人が2.3%、成長投資枠では12.2%。金融経済教育の経験ありの者のプラス(つみたて投資枠:88.5%、成長投資枠:78.1%)は、経験なしの者のプラス(つみたて投資枠:81.1%、成長投資枠:67.5%)と比べて高い

(筆者注)外国株が年内を通しては右肩上がりだった積立投資枠はともかく、成長投資枠が含み損の人が12%なのは想像より少ない。個別株の損切りもあるだろうが、見栄で回答した人も相応にいたのではないかと疑ってしまった。
金融経済教育との関係については以下の詳細を見ると「金融経済教育の経験あり」の方が「(損益が)わからない」が少なく、その分プラスが多くなっている。「(損益)マイナス」の比率は金融教育の有無でほぼ差がない。

個人的には「金融経済教育の経験がある回答者の方が損益状況をきちんと把握している」(これ自体はいいこと)と言うべきで、本報告書の「金融経済教育の有無が良い結果につながる」というトーンには恣意性を感じた。知っての通り2024年4月に政府資金10億円が投入され金融経済教育推進機構(J-FLEC)が発足し、日銀、全銀協、日証協はその運営に関わっている。そういう方向に持っていきたいという思惑を感じる。

・情報収集の手段

対面型証券会社の口座利用者は「担当者からの説明」(27.3%)が最多で、「新聞やテレビ、ラジオからの情報」(23.4%)がそれに次ぐ。
ネット証券の利用者は「SNSや動画サイト」(33.6%)が最多で、「証券会社からのインターネットを通じた情報」(23.6%)がそれに次ぐ。

(筆者注)チャネルによって見ているものが違う、と評価する人もいるかもしれないが、自分はよく見聞きするメディアと業者発の情報を参考にしているという点で共通している」と思った。チャネル別だけでなく年代別の集計も見たかったがそれは掲載されていなかった。(本報告書は(速報版)なので確報版で示されることを期待)

・金融経済教育の影響

新NISA利用者のうち、金融経済教育を受けた経験がある人は23.0%。これは類似調査よりも多い。

(筆者注)ここでいう類似調査は、以下のもの。

➔金融広報中央委員会や日証協による証券投資の有無で回答者を絞らない調査では金融教育を受けた経験ありは7%台
➔日証協による証券投資をしている人を対象にした調査では10.8%

確かに多い。これも金融教育を推進したい気持ちがビンビン伝わってくる。

新NISAにおける投資行動(銘柄選択とその理由)

以下では、筆者の関心の中心事項である「新NISAで個人投資家はどのような投資行動(≒銘柄選択)をしているか?」という観点で見ていく。

新NISAで購入した商品

報告書では、枠ごとにどのような商品が購入されたかが掲載されている(複数回答可)。後述するが、選択肢にかなり難があるので筆者が集計し直した表も示す

成長投資枠

公表資料

見やすく集計

つみたて投資枠

公表資料

見やすく集計

所感

成長投資枠は上場株式・ETFが56%、投資信託が44%という内訳である。
上場商品は日本株が大部分を占め、外国株とETFは思っていたよりも少ない(4.9%と1.8%)。「外国株ばかり買われている」という新NISA批判に対する一定の反論材料になりそうである。
投資信託の傾向は想像通り外国株インデックスファンドに資金が向かっている。特に全世界株インデックスは回答の半分に迫る。S&P500連動投信は「上記分類以外の投信」に入るが9.7%全てということはないはずなので思いのほか全世界株1強。

投信のみが対象のつみたて投資枠では全世界株インデックスが55.3%となり更に支配的。米国株ファンドが含まれる「上記分類以外」が17.8%で全世界株インデックスの1/3しかないため、成長投資枠以上に全世界株が選好されている。

また、両枠に共通してバランスファンドが回答の10%強という侮れない面積を占めているのはが意外だった(日本株投信よりも多い)。未経験者にも進めやすい商品として銀行チャネルなどでプッシュされているのだろうか?

選択肢の種類に関する批判

調査自体への批判を書くと、この調査は選択肢の作り方に難があり、代表的な商品種別を取りこぼしてしまっている。本調査における投資信託の分類は以下の11個である。

投資信託(インデックス型)全世界株式(日本を含む)
投資信託(インデックス型)全世界株式(日本を除く)
投資信託(アクティブ型)全世界株式(日本を含む)
投資信託(アクティブ型)全世界株式(日本を除く)
投資信託(インデックス型)複数資産(バランス型)
投資信託(アクティブ型)複数資産(バランス型)
投資信託(わからない)全世界株式(日本を含む)
投資信託(わからない)全世界株式(日本を除く)
投資信託(わからない)複数資産(バランス型)
投資信託日本国内株式・債券・REIT
投資信託上記以外

アセットクラスが全世界株(日本含む)・全世界株(日本除く)・バランス型・円資産(日本国内株式・債券・REIT)の4種という奇妙な切り口なのが問題で、以下のような不具合が生じている。

➔人気が高く残高が多い米国株ファンドが「投資信託上記以外」に分類されてしまう。公募投信残高ランキング上位のSlim米国株式やアライアンス・バーンスタイン米国成長株が「その他」扱いになる。「米国株投信」または「全世界株式以外の外国株投信」という区分は絶対にあった方がよかった

➔債券ファンドが入る区分が「投資信託上記以外」と「日本国内株式・債券・REIT」しかないが、いずれも株式ファンドも含まれる分類なので、株式ファンド:債券ファンドの比率が分からない。

➔「投資信託上記以外」と「日本国内株式・債券・REIT」にアクティブ/インデックスの区分が無いためアクティブファンド:インデックスファンドの割合が分からない。特に「上記以外」の大部分を占めると思われる米国株ファンドをアクティブ/インデックス別の選択肢として設けるべきだった。

MSCI ACWIとMSCI ACWI ex JAPANのリスク・リターン特性はほぼ同じなので、全世界株を日本を含むかどうかで分ける意味が乏しい。

邪推になるが、選択肢作成者には「日本企業に資金が向かっているという結果が欲しい」「単一国への投資が多いという結果は出てほしくない」という意図があったのではないかと思わずにいられない。前者は「日本国内株式・債券・REIT」という他とは異質な区分の存在や全世界株をわざわざ日本除く・含むで分けることに、後者は「米国株投信」が無いことにつながる。

成長投資枠のアクティブ/パッシブ(インデックス)比率

上記の通り、選択肢に癖があるせいで正確にはわからないのだが、成長投資枠で購入された投資信託のアクティブ/パッシブ比率を可能な範囲で集計した。

◯インデックス・・・24.6%
◯アクティブ・・・4.0%
◯アクティブパッシブ不明・・・15.1%

直接計算できる数字は概ね6:1(24.6:4.0)である。GPIFの足元のアクティブ・パッシブ比率が5:1程度であることを考慮すると割と妥当な水準だと思う(なおGPIFは公的年金・SWFとしてはパッシブ偏重な方)。

銘柄選択の理由

続いて、「購入銘柄の理由」という項目を紹介する。銘柄選択・商品選定の観点にあたるのでなかなか興味深い。

成長投資枠

つみたて投資枠

・つみたて投資枠では「海外の成長性への期待」が1位で「日本国内の成長性への期待」の倍以上の回答を集めている。購入商品に照らせば当前の順位だが、回答者である市井の人々は日本経済の成長性についてかなり絶望的である。国家の舵取りを担う人々は重く受け止めて欲しい。

・インカムを求める投資家はかなり多い。「配当金/分配金が魅力的な銘柄だから」は成長投資枠で2位、つみたて投資枠でも4位に位置する。金融庁は父権温情主義的に毎月分配型やカバードコール投信をNISAの対象外としているが、インカムの希求は投資家自身のニーズであることはしっかりと認識してほしい。
(とはいえ、自分は10年前に販売手数料3%信託報酬2%のカバードコール投信の担当で「業界全体でこんな商品売ってたらいつか酷い目に遭うだろう」と思っていたので、運用会社なんて信用されなくて当然だよなぁとも思っている。)

・この海外志向とインカム志向は調査主体にとっては不都合な事実だったのか、報告書の概要部分ではこの項目に関する言及はスキップされている。邪推だったらすみませんねぇ。

おまけ NISAへの改善要望

最後に、本文にはあるものの概要では触れられていなかったものとして「NISA制度改善要望」という項目を紹介する。

この設問の中で、NISAが本家英国のISAより劣っている部分の手当を求めるものが以下の2点である。

(つみたて投資枠・成長投資枠の)非課税保有限度額を拡大してほしい
➔英国のISAは年間投資枠は2万ポンドでNISAと同等だが、非課税限度額に上限がない

スイッチング(NISA口座内の金融商品の売却で得た資金を用いて別商品を購入。当該購入分は、NISAの年間投資枠の利用額としてカウントされない)ができるようにしてほしい
➔英国のISAではスイッチングは枠消費なし

特に後者のスイッチングの枠消費無しの順位が低いのが意外だった。NISA=積立のイメージを持っている人が多いことや、選択肢の書き振りが冗長なのが理由ではないかと推察する。
スイッチングの枠消費無しは、アクティブに売買したい投資家だけでなく、積立・長期目線の投資家にもライフステージに応じてポートフォリオのリスクをマネージするために有用なので、NISAが本家ISAよりナーフされている部分としてもっと知れ渡って欲しい。

相続については、現在の「被相続人の死亡時(相続発生時)の含み益まで非課税、相続人は被相続人死亡時の時価を取得価額として課税口座で引き継ぐ」という条件で十分だと思うので、これほどに上位なのが意外だった(そもそも相続発生時のNISA保有資産の取扱を知らずなんとなく選んだ人が多そうな選択肢ではある。)

おわり

以上です。気になる人はぜひ原典にも目を通して見てください。

 

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