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QYLDとカバードコール戦略の理解を深める【元カバコファンド担当者による】

2022年8月13日

本稿では米国上場ETFのQYLDと同ファンドの戦略であるカバードコールについて解説します。
QYLDは米国で2021年に大ブレイクしたETFで、日本でもソーシャルメディア等でよく話題になっています。

後述しますが運用会社の日本現地法人が大和証券Gとの合弁であるため、キワモノの割に日本語での情報発信が比較的充実しているファンドです。
自分は公募のカバードコール投信の担当をしていたことがあるので、本稿ではGlobal X Japan公式や先駆者のブログより深い内容に迫れるよう務めたい。

QYLDの理解を深める

まず、QYLDの概要、QYLDの運用方法、運用会社Global Xの概要を確認する。

QYLDの概要

QYLDは米運用会社Global Xが運用する、NASDAQ100指数に100%のカバードコールを付加した戦略のETFである。

QYLDのファンド概要

ファンド名称・・・Global X NASDAQ 100® Covered Call ETF
         (ティッカー:QYLD、NASAQ上場)

ベンチマーク・・・Cboe Nasdaq-100 BuyWrite V2 Index(BXNT)

運用会社・・・Global X Management Company LLC.

運用手数料(Expense Ratio, 経費率)・・・年0.60%

ファンド純資産残高(AUM)・・・72億ドル(2022年8月月初基準)

設定日・・・2013年12月11日

日本における取扱証券会社・・・楽天証券、SBI証券、マネックス証券等多数(外国投資信託の届出書あり)

参考:Global X Japanによるファンド概要

QYLDの運用方法

カバードコール現物株の保有(ロング)当該株式のコールオプションの売りを組み合わせた戦略で、ペイオフ(損益)の形状はプットオプション売りと同じになる(次節で詳しく説明)。

カバコファンドはオプションプレミアムを配当原資とした高配当の商品として組成することが多く、QYLDだけでなく、日本で8年前頃に流行ったカバードコール投信もそのような商品になっている。

カバードコール戦略

・QYLDでは、NASDAQ100指数構成銘柄にウェイト通りに投資するのに併せて、保有株式の時価残高の100%を想定元本としてNASDAQ100指数のコールオプションを売却する。

カバー率100%なので、保有株式の値上がりはすべてオプションから発生する損失の穴埋めとなる(コール売りは株価上昇時に損失発生)。従ってファンドの資産はオプション売りのプレミアム(オプションの売却対価)のみによって増加する。一方、保有株式の値下がりによってファンドの資産は減少する。
(↑の図や後述のカバードコールの説明を参照)

売却するオプション

・売却するコールオプションは期間1ヶ月アット・ザ・マネー・オプション(ATM, 売却時のNASDAQ100指数の値を権利行使価格とするオプション)
売却したオプションは満期日(通常第3金曜日)の前営業日の午後3時30分から午後4時までのVWAPで市場で買い戻し、併せて新規のコール売りを行うことによりロールオーバーする(ベンチマーク指数のBXNTの算出方法と同様)。

→NASDAQ100指数の上場オプションは行使条件がヨーロピアンタイプ(満期日のみ行使可能)かつ差金決済となっている。そのため満期日の前営業日にオプションを買い戻すQYLDが権利行使されることは基本的にない。
(「米国」の上場オプションでもアメリカンタイプなのは個別株だけで、指数の上場オプションはだいたいヨーロピアンである。)

分配方針

・オプション売りでQYLDが取得したプレミアムは「オプションプレミアムの半分」「NAV(純資産, 基準価額)の1%」のいずれか低い方を上限としてQYLD保有者に分配する(毎月分配)。

→カバー率100%だとプレミアムしか資産が増加する要因がないので、全て分配すると、
株価上昇→資産増えない
株価下落→資産減る
となり1口あたりNAV(基準価額)がゴリゴリ減少するため。とはいえ、単純計算で年間配当利回り12%となるため、これでもかなり責めた設計。

 

 

運用会社のGlobal X社について

Global Xは2008年創業の米国の運用会社で、カバードコール型の高配当ファンドや特定セクターに傾斜したファンドなど、尖った商品を多く手掛けている。
2022年8月月初の時点ではETFの運用残高は400億ドルで、QYLDはそのうち72億ドルを占める。

参考:Global X社HP ETF銘柄一覧

2018年に韓国の運用会社のMirae Asset Management(ミレー)がGlobal Xを買収している。

出所:Mirae Asset Management HP

ミレーアセットは日本では大和証券グループと協業しており、大和アセットにはミレーが実運用を担当するアジア株の公募投信が12ファンドある。
その繋がりからか、Global Xの日本法人であるGlobal X Japan株式会社は米国のGlobal X(50%)と大和証券グループ(大和アセット40%・グループ本社10%)の合弁会社となっている。ファンが多いレバナスも大和アセットなので、大和アセットは意外とソーシャルに強い運用会社なのかもしれない(褒めてるよ)。

カバードコール戦略とBXNT指数

続いて、一般的なカバードコール戦略の損益と、ベンチマークであるBXNT指数について解説する。

カバードコールはプット売りと同じ形

QYLDが採用するカバードコールは、現物株を保有している状態で同じ銘柄のコールオプションを売却する戦略である。この場合のペイオフ(損益)はプット売り(ショートプット)と同じ形状になる。

以下では、金融論の教科書に出てくる損益図を使って解説する。

現物株ロング

単純に現物株をロングしている状態のペイオフ(損益)が以下の通り。株価が取得価格以上であれば益が出て、取得価格以下であれば損が出る。

数値例:
A社株1株を1,000円で購入
→株価1,100円なら利益100円
→株価900円なら損失-100円

コールオプション売り

そして、コールオプション売り(ショートコール)の場合は以下の通り。
権利行使価格で「買う権利」を売っているので、株価が権利行使価格より低ければオプションは行使されず、プレミアムがそのまま利益になる。だが、株価が権利行使価格を上回るとオプションの行使による損失が出るようになり、それがプレミアムでカバーしきれなくなるとポジションとして損失になる。

数値例:
現在1,000円のA社株について権利行使価格1,000円(ATM)のコールオプションを35円で売却
(無リスク金利3%、期間1ヶ月、ボラティリティ30%くらいの想定)
→オプション満期時株価が1,100円なら損失-65円(オプション行使による損失-100とプレミアム+35円)
→オプション満期時の株価900円なら利益35円(プレミアム35円)

カバードコール(≒プット売りと同じ形)

上記の現物ロングとコール売りを組み合わせたカバードコールのペイオフが以下の形状になる。
株価が現物の取得価格を下回っている状態では現物株から損失が発生するが、オプションを売却したプレミアムがバッファーになり現物ロングだけのポジションよりは損失が少なくなる。
一方で、株価がオプションの権利行使価格を上回る場合にはコール売りから損失が発生するが、現物株の上昇による利益がそれを相殺し、損益は一定になる(カバー率100%の場合)。

数値例:

上記2例の合算
→満期株価1,100円なら、現物株の利益100円、オプションの損失-65円、合計35円(プレミアム相当)
→満期株価900円なら現物株の損失-100円、オプションの利益35円、合計-65円

前項で見た、

「ファンドの資産はオプション売りのプレミアムのみによって増加する。一方、保有株式の値下がりによってファンドの純資産は減少する。」

というQYLDの性質はこのペイオフの形状とリンクする。

カバードコールの指数(BXM、BXNT、BXN)

シカゴオプション取引所の運営会社でVIX指数の算出者でもあるCBOEは、カバードコール戦略を機械的に適応した値動きを表す指数を算出している。

もっとも有名なのはCboe S&P 500 BuyWrite Index(BXM)というS&P500指数のロングに期間1ヶ月のカバードコールを付与した戦略の指数だ。

参考:CboeによるBXM指数の説明

オプションを売ることをwriteと言う。日本人感覚だと慣れない言い方。

QYLDのベンチマークは、NASDAQ100のバイライト指数であるCboe NASDAQ-100 BuyWrite V2 Index(BXNT)という指数だ。

出所:Cboe HP,Methodology

CBOEの説明によると、最初にV2がつかないCboe NASDAQ-100 BuyWrite Index(BXN)という指数があり、それをより扱いやすくしたのがBXNTだ。QYLDも設定当初はBXN指数をベンチマークにしており、BXNTが算出されるようになってから変更している(BXNTの算出開始が2015年6月22日、QYLDのベンチマーク変更が2015年10月14日)。

具体的な差異は、BXNは権利行使(or失効)&新規売りでオプションをロールオーバーするよう計算するのに対し、BXNT(V2)は反対売買&新規売りでロールオーバーするように計算することだ。
これにより、BXNは計算にオプションの清算情報が必要だが、BXNTは市場価格のみから計算できるようになっている。
QYLDの現在の運用もBXNTと同様に反対売買&新規売りでロールオーバーすることを原則としている。

カバードコールは儲かるのか

QYLDのパフォーマンス

以下のチャートはQYLDの2014年から2022年6月までの8年半のパフォーマンスを示したものだ。QYLDは単純な価格だけのものと配当込の2系列を用意し、比較のためにQQQ(NASDAQ100 ETF)とBXN指数(ベンチマーク)も載せている。

詳細説明
・2013年末を100として指数化。
・QYLD配当調整とQQQ配当調整はTradingViewの配当調整株価を使用。配当金(分配金)を税抜きで再投資した計算となっている。
・BXN指数は配当込みの指数。BXNT指数は対象期間のデータが取得できなかったためBXN指数を掲載している。

上述のとおり、純資産の上昇要因はオプションプレミアムのみ、年率12%で分配、株価下落ではしっかり純資産が減るという設計の商品なので、プライスリターン(QYLD終値)では一貫して右肩下がりである。

もっとも、配当込みでは相応のリターンが出ている。2013年末を100とすると2022年6月末時点で以下の数値になる。

QQQ配当調整・・・344(+244%, 年率換算+15.6%)

QYLD配当調整・・・166(+66%, 年率換算+6.1%)

QYLD(価格)・・・68

※経費率に0.40%差あることに留意(QQQ年率0.20%、QYLD年率0.60%)

リターンの差異を端的に書くと以下のようになる。

カバー率100%のカバードコールを行うQYLDは株価上昇による恩恵を全て放棄するため、NASDAQ100指数がブルマーケットの期間が長かった2014年以降の8年半(2013年12月設定なのでほぼ設定来)では、単純なバイ・アンド・ホールドと比べるとリターンが大きく劣後する

そこそこのボラティリティ、そこそこのリターン=良好なシャープレシオ?

ここでリターンだけを見てQQQに劣ると書くのは早計なので、標準偏差で割ったシャープレシオ(リスク調整後リターン)を示す(無リスク金利は省略)。

同じ2014年から2022年6月末で、QYLD配当調整とQQQ配当調整の年率標準偏差(日次騰落率×√250)を算出しシャープレシオを計算すると以下の通り。

年率標準偏差

QYLD配当調整・・・15.3%

QQQ配当調整・・・21.3%

シャープレシオ(年率リターン/年率標準偏差)

QYLD配当調整・・・0.40

QQQ配当調整・・・0.73

QYLDの方が低ボラティリティだがシャープレシオで上回るほどではない。

参考までに、コロナ相場で米国ビッグテック(GAFAM)&テスラの株価がバンプアップされた時期を除くと以下のようになる。

2014年-2019年末まで

リターン

QYLD配当調整・・・年率8.7%

QQQ配当調整・・・年率17.0%

年率標準偏差

QYLD配当調整・・・12.0%

QQQ配当調整・・・16.6%

シャープレシオ(年率リターン/年率標準偏差)

QYLD配当調整・・・0.73

QQQ配当調整・・・1.03

この期間も米国株テック銘柄が強気相場だった期間が長いため、リスク調整後リターンで見てもQYLDはバイ・アンド・ホールドに劣後している。

インプライドボラティリティは総じて実現ボラティリティよりも高い

実績だけを見ると、ブルマーケットの中で相対的に中途半端なリスク調整後リターンになっているQYLDだが、一般的な投資運用の知見ではカバードコール戦略には相応に妙味があるとされている。

その理由は、インプライドボラティリティは実績ボラティリティよりも総じて高いというものである。
インプライドボラティリティというのは、オプション価格から逆算した価格の前提となっているボラティリティである。ブラック・ショールズモデル等を使った理論価格の計算では、ボラティリティ以外のパラメータ(権利行使価格、現在の株価、期間、金利、配当等)は既知であるため、乱暴に言えば

「オプションをいくらで取引するか≒インプライドボラティリティをいくつとして値決めするか」

ということになる。
"恐怖指数"としてメディアで雑に参照されているVIX指数は、S&P500指数の上場オプションのインプライドボラティリティを指数化したものである。

オプションは株価下落時に保険として機能するため、保険としての需要がある。そのため、オプションの取引価格から逆算したインプライドボラティリティは株価の騰落率から計算した実績ボラティリティよりも高くなりやすいのである。

ワンポイント!

直接に下落時の保険になるのはプットプションの買いだが、プット買いと同じペイオフはコールオプションの買いと先物売りで複製できるので、この「保険としての需要」の恩恵はコールオプションにももたらされる。意外と誤解している人がいる。

この傾向が、カバードコール投信からヘッジファンドまで、オプション売りを内在した戦略の支えになっている。

もっとも、オプションのペイオフは非対称であるため、危機時や稀なイベント(テールリスク)の際に危機的なダメージを受ける可能性もある。オプション売りを内在した戦略がしばしば「ブルドーザーの前で小銭を拾う行為」と揶揄される所以である。

(このあたりは時間を見て加筆するか別に書きたいと思っています。)

おわり

以上です。

カバードコールはブルマーケットが含まれる期間ではリスク調整後リターンでもバイ・アンド・ホールドに勝てない戦略です。
とはいえ、カバコファンドは公募投信だと買付手数料3%&運用報酬2%で提供されていた戦略です。それが米国ETFのQYLDなら買付手数料0.5%以下&運用報酬0.60%で手が出せるので、高配当なサテライト銘柄を求める投資家には選択肢になり得るファンドだと思います。

ただ、本文では省きましたが、米国ETFの分配金は米国現地源泉税10%と日本の所得税住民税20.315%がかかるので、外税控除やNISAを使わないと税引き後のリターンがかなり目減りする点には留意すべきです。特に、QYLDは長期的には時価単価が減少傾向になるファンドですが、ETFのタコ配は特別分配金になりません。

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