日本銀行の資金循環統計で、家計の投資信託の保有額が大規模に下方修正されたことが話題になっています。
具体的には、2017年12月末時点で、家計の投信保有額が
(改定前)109兆1,000億円⇨(改定後)76兆4,000億円
というように、33兆円も少なくなるように修正されています。
ちなみに、2018年3月末の値は73兆円です。
報道によると、この数字は投信協会のデータから、金融法人による投信の保有を控除して家計の保有分を算出していたものの、ゆうちょ銀行の投信保有残高を控除していなかったことから、金融法人による投信保有が過小になり、家計の保有が過剰になっていたとのことです。
家計の投信保有残高が増加し「貯蓄から投資へ」の移行が進んでいたと考えていた業界関係者にとっては衝撃的です。
拡散の経緯
改定値自体は6月末に出ていたようですが、話題になったのは最近です。
関連する記事などをたどると、本件の拡散の経緯は以下の通りではないかと推測しています。
6月27日に日銀が「資金循環統計の改定値の公表について」としてしれっと発表
日銀:
7月12日に投信協会の定例会見で話題になり、同日の日経の記事になる
投信協会:
日経新聞:
7月23日に毎日新聞が「誤計上」「日銀がミス」と強気(??)の姿勢で記事にしたものがYahooニュースに配信され、Twitterなどで話題になる
毎日新聞:
Yahooニュース
Togetterまとめ:
残高が伸びなかった理由
さて、改定の原因は、ゆうちょ銀行(金融機関)の保有分を個人の保有残高としてカウントしてしまったことでした。
では、株式市場が堅調だった2017年にかけて投信残高が横ばいだったのはなぜでしょうか。
見ていて一番納得感があった考察は、上にもリンクを張った投信協会の岩崎会長の記者会見です。
協会の考察では、(個人投資家が主に保有する)公募投信の残高が横ばいの理由は以下のとおりです。
⇨株高による運用パフォーマンスの上昇。⇨投資家は利益を確定させるために投信を解約。また、収益分配金を受領。⇨株価上昇が続く中で、それらの資金が再投資に回らなかった。⇨結果として日銀が保有するETFと、機関投資家が保有する私募投信の残高のみが順調に伸びている。
違和感の無い説明だと思います。
また、記者の質問によると、改定の原因はゆうちょ銀行だけでなく、「信金中央金庫、信用金庫、ゆうちょ銀行等が購入している投資信託を家計部門が保有しているものとして捉えていた」ことによるそうです。
実際の数字
現在、日銀の統計DBからダウンロードできる同計数は改定後のものです。
2008年以降の数値をグラフと表にしましたので貼っておきます。
図表:家計の投信保有残高の推移
投資対象資産の価格変動の影響を受ける数字ではあるものの、2013年以降の株価上昇局面では、保有残高も上昇傾向でした。2012年の安値からTOPIXが倍以上になっているのに投信残高は最大で6割程度の増加というのは少し寂しいですが。
そして、直近について見ると、2017年の株価上昇局面でほぼ横ばいということは、実質的には資金流出と捉えて良いと思います。
逆に言えば日本の個人投資家は過熱感を警戒して資金を引き上げているとも言えるので、そこまで悲しむべきことでは無いのかもしれません。これから市場が調整すれば、結果として日本の個人投資家は賢明だったという評価になるかもしれません。